[不動産を正しく知るための本]関東大震災(吉村昭|文春文庫)

『関東大震災』(吉村昭|文春文庫)
「不動産を“正しく”知るため」に役立つと思ったポイント
[1] 関東大震災時の東京等における家屋倒壊数 [2] 地盤の悪い下町での被害が甚大 [3] 流言が飛び交っただけでなく、どさくさにまぎれた殺人もあった |
この本の一番優れていると思う点は、関東大震災という未曽有の大災害をデータも示しつつ、体験談なども交えつつ物語調で書かれていることです。
例えば、東京における家屋倒壊数の箇所(「東京の家屋倒壊」P59~)では、四谷区(全壊125,半壊331)、牛込区(全壊515、半壊1,001)、立川町(全壊0、半壊0)等の東京都の西側の丘陵地帯まで行くと被害が少ないというデータを示した後、杉並村高円寺に住んでいた尋常小学校3年生の日記を紹介しています。
この小学生の体験談により、東京都の西側でも揺れは非常に大きかったことが実感されます。その後、下町地帯での被害を、これも具体的に「本所被服廠跡」「浅草区吉原公園」「上野公園」で起きたことをドキュメンタリー風に書かれています。
データと併せて、実際に起きた出来事をドキュメンタリー風に記すことで、データとしての数字を見た後に、この大災害を体験した人の主観的な視点から追体験することとなり、恐ろしさが倍化します。
いつ起きても不思議ではないと言われる「首都直下型地震」または「東南海地震」でどのようなことが起きるのかを想定するためにも、一読することをお勧めします。
特に“家”を購入する人は、その“家”が建つ場所は本当に大丈夫なのか、国土地理院地図を見ることと併せ、過去の災害状況も知ることが大切です。“家”は「家族の“命”と“財産”を守ること」が一番大事な機能です。
安くても“危険な”土地に住まない
関東大震災の震源地は相模湾だったので、この地震では東京だけでなく、神奈川県の被害も非常に大きなものがありました。
小田原町では、崖は一斉に崩れ、橋は落ち、家屋はもろくもつぎつぎと倒され、、、
箱根の温泉地でも、旅館が断崖上から渓谷に墜落して四散し、、、
塔ノ沢では、渓流が崖崩れでふさがれて鉄砲水が起り、、、
横須賀では、丘陵の地すべりが発生し、鉄道のトンネルが崩壊して、、、
平塚では海軍火薬廠でガスの引火によって大爆発が起り、、、
等と甚大な被害が出ました。
これらの記録を読んで思うのは、やはりできる限り安全な土地を選んで住むべきだろうということです。
■崖崩れ
大きな地震が起きれば、崖崩れが発生することは想定しないといけません。“家”を購入するのなら、急傾斜地崩壊危険区域は避けなくてはなりません。
■地すべり
家の裏に手入れがされていない山林が広がっていたら要注意です。地震だけでなく、集中豪雨などによっても地すべりは発生します。
■鉄砲水・洪水
川の近くはリスクがあります。台風や集中豪雨などによる洪水の可能性もありますが、地震により崩壊した崖や、都心でも橋や壁・建物などが川をふさぎ洪水を起こす可能性があります。荒川では、堤防が決壊する可能性も指摘されています。
※一般社団法人リバーテクノ研究会「地震水害の発生プロセス」
等のリスクの存在が分かっているのですから、それらのリスクのある場所は避ける必要があります。繰り返しですが、“家”は「家族の“命”と“財産”を守ること」が一番大事な機能です。
まとめ
地域防災が専門の秦康範・山梨大学工学部准教授が1995年から2015年までの20年間に渡り、全都道府県の浸水想定区域内と国勢調査の人口分布を重ね合わせる調査を行ったところ、浸水エリアに指定されている危険な場所に住む世帯が309万世帯も増えたことが判明したそうです。
※ 浸水危険地域への居住が309万世帯も増えた理由(https://wedge.ismedia.jp/articles/-/20849)
税収を増やしたい(=人口を増加させたい)自治体と宅地開発業者が土地のリスクを無視して分譲してきたことのツケを住民が払うことになるのでしょう。
このことは、以前ご紹介した『宅地崩壊』でも指摘されていました。
自治体(お上)がGOサインを出した土地だから、、、
銀行の審査が通った土地だから、、、
財閥系の大手不動産会社の分譲だから、、、
等と判断を人任せにしていると、本当に“命”と“財産”を失う可能性があるということです。