不動産鑑定士の仕事は、エンドユーザーの役に立つか?

再度、番外編です。
不動産鑑定士の友人と会う機会があり、不動産鑑定の難しさを語り合いました。

1.不動産鑑定という仕事に対する認知度の低さ
2.作業単価に対して労力を認識していただくことの難しさ
3.不動産鑑定という仕事自体の社会における位置付け
等の問題につきまして、話が尽きませんでした。

まぁ、愚痴のようなものなので、不動産の“鑑定”に興味のない方は飛ばしてください。(^o^)

1.不動産鑑定に対する認知度の低さ

少し前、商店街の人に「不動産鑑定士より宅建士の方が難しいよね?」と言われました。やっぱり不動産鑑定士なんて普通の人は聞いたことがないですよね?

よく聞く名前の方が上に思えるというのは、よくあることだと思います。でも、でもですよ、不動産鑑定士試験は、「不動産鑑定評価理論」「経済学「会計学」「民法」「行政法規」という5科目の勉強が必要で、以前のコラムでも触れた通り「行政法規」以外はかなり本格的な論述問題です。
※現在の不動産鑑定士試験の科目等は、こちらをご覧ください。

そして、勉強量全体の20分の1以下と思われる比重の「行政法規」で宅建試験の範囲はほぼカバーできます。宅建試験でも大切な民法に至っては、鑑定士は論述なので、身に付けておかなければならない知識量が全く違います。

鑑定士を目指して本気で勉強しているなら、宅建業法の勉強だけを少しやれば宅建に合格できます。上記のように試験の難易度は、20倍~30倍じゃきかないくらい鑑定士の方が難しいと思います。

その違いを我々の業界がアピールできていないのは本当に問題だと思います。今いるおじいちゃん鑑定士とかは、一般の人は眼中にないのだと思います。公的な評価や金融機関の担保評価等が業務のメインであり、かつ十分な報酬を貰えているので、わざわざ一般向けにアピールしようという気もないのでしょう。

2.作業単価に対しての認識

鑑定士の仕事は、基本書類作成です。商品が「不動産鑑定評価書」なので、その内容をいかに高めるかに労力を使います。地域の状況(人口、駅乗車人員、商圏等)を調査し、その不動産に対応したマーケットを把握します。

これが、例えば私の場合、
エリア:東京都心6区
類型:賃貸マンション、貸しビル、分譲マンション
権利の態様:所有権
でしたら、そんなに労力をかけずに作成できます。

ですが、

エリア:行ったことのないところ、かつ東京都じゃない場所
類型:自用の事業用物件(ホテルやレストラン、老人ホーム等を建物を所有して経営している)
権利の態様:借地権や地上権、使用借権等の所有権以外の権利

のように、一つでも下の条件になっただけでかなり時間がかかります。

更に、想定上の条件や過去時点での評価となると、整合性を判断するのにも時間と労力が必要となります。

先日も、埼玉の方の鑑定を10万円でやってくれと依頼され、丁重にお断りしました。新宿区でしたら、既にひな形があるので、個別の不動産を見れば済みますが、埼玉だと地域の状況や不動産マーケット等も全部新しく調べないといけないので。(新宿区のものでも、10万円ではなかなか受けられないですが)

ですが、この地域要因なんて、実際の鑑定書では全然読んでもらえないんですよね。記載は2~3行の人口の推移を調べるだけでも15分~20分かかったりしているのに。実際、地域要因だけでかなり時間がかかります。でも、地域が分からなくては、個別の不動産は分かりませんので手を抜くこともできません。対象不動産の実査時の周辺調査以外にも、役所や法務局、事例地や地域の図書館等、数回足を運ぶことも必要です。この辺の労力は報酬としていただけないんですよね。。。

なので、私は基本的には新宿区(広くて都心6区)の案件に限らさせてもらっています。逆に、このエリアでしたら、安い値段で早い納期でもお引き受けできますので、お客様にもメリットがあります。

まぁ、あとは、仲介業者が出す査定と違い、裁判資料に採用される可能性のあるものなので、法的に責任を負うための応分の報酬はいただきたいですが、、、難しいところです。

3.不動産鑑定の社会における位置付け

「不動産鑑定」って、要は不動産に価格を付ける訳です。不動産に価格を付けるって、仲介業者もやってますよね。

それどころか、最近では、マンション等の、物件に変な条件が付いていることが少ない類型については、インターネット上で簡易査定、なんてあちこちでやっています。

では、価格の根拠をつらつら40ページ超に渡って並べ立て(附属資料も含めると60ページほどになります。)、きれいに製本する「不動産鑑定評価報告書」はどういう価値があるのでしょうか。

最終的に表示される「不動産の価格」には、そんなに差がない場合もあります。その価格になった過程を精緻に調査し、詳細に記述しても、価格を知りたいお客様にとっては“おまけ”みたいなものだったりします。

その“おまけ”にいくら払いますか?という話になってしまうんです。いやぁ、不動産鑑定の仕事は難しいですね。

ただ、これは上記とは全然異なる方向性の話なのですが、不動産鑑定士って、価格の根拠をすべて詳らかに記述し、そして、それが裁判資料になることもあるので、すごく誠実に不動産を見る方が多いという印象はあります。

私の修習時代の先生は、「先生、ここまでやらないとダメなんですか?」って修習生が引いたほど精緻な鑑定書を作成していました。先日、横浜で飲んだ、鑑定士の仲間も、私が今こういう案件やっているんだと概要を話しただけで、「これ使えるかな?」って、自分の仕事の時間を削って、資料を何通も送ってくれたりする「いい人過ぎるだろぉ!」と言いたくなる人です。

誠実でまじめで、営業トークは苦手、って感じの方は多いです。

仲介の人の営業力と、鑑定士のまじめさが組み合わさればすごくいい仕事ができそうなのに、といつも思います。

私が思うのは、鑑定のただ「価格を出す」という仕事にはあまり将来性を感じないが、鑑定士の不動産への向き合い方を活かした、不動産コンシェルジュ的な仕事はできないものかと思っております。