山手線内に位置し池袋駅から1駅の「東池袋駅」、有楽町駅から4駅の「豊洲駅」、どちらも東京メトロ有楽町線の駅で、駅周辺で最高値の路線価が同水準であるなど地価の相場が近い街ですが、この2つの街を災害に対する安全面から比較してみます。
地形
●標高 ⇒ 駅敷地の標高(国土地理院地図) ●地形 ⇒ 国土地理院地図の土地条件図 ●台地比率 ⇒ 台地比率の画像は、駅から半径1kmの円を切り取ったものです。国土地理院地図の土地条件図では、台地がオレンジ色で表示されるので、その部分の比率を出せば「台地比率」となります。 ※詳しくは、「駅の周囲1kmの高台比率ランキング(東京メトロ有楽町線)」をご覧ください。 |
まずは、2つの街がある場所の地形から見ていくことにしましょう。注目すべきは「台地比率」です。
何故「台地」の有無(比率)を比較するのかというと、関東大震災でも、台地の上と低地とでは震度が”1”ほども違ったと言われるからです。震度が”1”違うということは、低地が震度6のときに、台地は震度5で済む可能性があるということです。
当たり前の話ですが、建物は地震で揺れるから損壊します。揺れが小さければ、損壊リスクを減らせます。
また、「台地」は浸水被害も少ないです。水は低いところに流れますから、「低地」の方が浸水リスクが高いのは自然のことです。
大地震への対処としても、大水害への対処としても、まずは、「台地」を目指すというのは間違っていません。
この点から比較すると、東池袋駅自体は谷底低地や台地斜面に位置しますが、周辺の7割のエリアには台地が広がっているのに対し、豊洲駅周辺は埋立地で台地はないので、東池袋駅に軍配が上がります。
地盤ハザードエリア
次に、駅の敷地が「地盤ハザードエリア」に掛かっているか否かを判定します。
「地盤ハザードエリア」とは、以下の地盤や地形に対する警戒・注意エリアを指します。
●東京都建設局が公開している東京の液状化予測図 ⇒「液状化の可能性がある地域」や「液状化の可能性が高い地域」 ●国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センターが提供している都市域の地質地盤図 ⇒「埋没谷」や「沖積層」の範囲 ●東京都が公開している土砂災害警戒区域等マップ ⇒「土砂災害特別警戒区域」「土砂災害警戒区域」「急傾斜地崩壊危険箇所」等 |
これを踏まえて、両駅を比較すると、東池袋駅の敷地は「地盤ハザードエリア」に該当しません。ただ、駅の周辺には、「液状化の可能性がある地域」に該当する場所が少ないながらも存在するので、家を購入する場合には、調査を怠らないようにしましょう。
対して、豊洲の方は、駅の敷地だけでなく、駅周辺も広く「液状化の可能性が高い地域」及び「沖積層エリア」に該当しています。
「液状化」が起きると、建物などの建造物が沈んだり傾いたりし、地中に埋めてあるライフライン(上下水道、ガス管等)が寸断されます。 |
「沖積層」は、最も新しく、まだ固まり切っていない軟弱な地層であり、この堆積エリアに該当すると、地震時に揺れやすい傾向があります。 |
総じて、豊洲は地震が起きると、揺れが大きくなる可能性が高い立地だと思われます。
表層地盤増幅率
ここでは駅の敷地がある場所の「表層地盤増幅率」を見てみます。
「表層地盤増幅率」とは、その場所の表層部分の地盤が地震の際に揺れやすいか否かを判定したものであり、数値が大きいほど表層地盤の揺れも大きくなると想定されています。 ※国立研究開発法人 防災科学技術研究所「J-SHIS Map」 |
東池袋駅の地盤増幅率「1.41~1.42」というのは、都区内の武蔵野台地エリアでも、低い方の数値です。J-SHIS Mapの数値と地震時の揺れが正確に比例する訳ではありませんが、大きな地震の際でも揺れが小さく抑えられる可能性がある場所です。
対して、豊洲駅の地盤増幅率「1.87~2.01」というのは、注意を必要とする大きな数値です。東京近辺で大地震が発生したら、震度7の揺れがあり得る場所です。
揺れの大きさは、被害の大きさに比例します。地震の際に揺れが大きくなる可能性が高いということは、次のような事態に繋がります。
1.建物が倒壊する可能性が高くなる。倒壊まではしなくても損傷する可能性は高くなる。 2.損傷個所が多くなる可能性が高いということは、修繕費用も高くなる。 3.家具などが倒れてくる可能性も高くなるので、家族がケガをする可能性も高くなる。 |
当たり前ですが、やはり、地震の際に「揺れやすい場所」には住みたくないものです。大災害の後には医療も逼迫するので、小さなケガも致命傷になりかねません。
家族の命を守るには、揺れが小さく抑えられる場所に住むべきでしょう。
ボーリング調査
ここまでの情報を、周辺にあるボーリング調査を見てみることで検証します。
東池袋駅周辺にあるボーリング調査地点の柱状図を見てみると、表層はあまり良い地層ではありませんが、深くなるにしたがって段々と固い地層となる地点が多く、大きな地盤リスクの兆候は見出せませんでした。(必ずしも良い地盤とも言い難いですが)
対して、豊洲駅周辺にあるボーリング調査地点の柱状図を見てみると、N値3以下の柔らかい地層が19mほどの深さまで続いている地点を始め、十数mの深さまでN値5未満しかない地点がほとんどでで「軟弱地盤」と言える状況です。また、地下水位が0m~2.1mと浅い上に、砂質の地層が深い部分まで続くので、液状化リスクも顕在です。
能登半島地震でも、「軟弱地盤」エリアにあるビルが横倒しになっている映像が流れていました。地面に建物を支える力がないので、杭に掛かる力は相当なものとなるでしょう。ある程度の確率で存在する施工不良の杭は耐えられないのではないかと危惧します。
来たる大地震に備えて、という意味なら、100%東池袋駅周辺に住むべきです。
既に住んでいたり、商売などの理由で豊洲駅周辺を離れられない場合は、家具の固定などを武蔵野台地エリアに住んでいる人よりも厳重に行うべきです。
地震に関する地域危険度測定調査
地震リスク比較の最後に、東京都都市整備局が公開している「地震に関する地域危険度測定調査」で2つの地域を比較します。
上表の数値は、駅から半径1kmの円を描いた際に掛かる町丁目のランクの平均値です。ランクは、5段階評価となっており、1が最も安全な地域ということを指します。 |
東池袋駅周辺は、全体的にリスクが小さい場所が多いです。ただ、圏内には細街路が広がり火災危険度の高いエリアもあります。大地震に備えるという観点からはお勧めできる立地ですが、細街路が広がるエリアに住むと、火事で家族の命と財産を失うリスクを負うことになります。東池袋駅周辺ならどこでも大丈夫、という訳ではないということに気を付けてください。
豊洲駅周辺は、人工的に造られた町らしく、地域危険度測定調査では安全な街とされています。建物倒壊危険度でも、木造や旧耐震の建物が少ないので数値は低くなっていますが、これはこの調査の限界と捉えるべきでしょう。
地震リスクについての定義の問題でもあります。
●「地面が大きく揺れる可能性が高い場所」をリスクと考える弊社
●木造や旧耐震の建物の数等も数値化して、建物倒壊危険度を出している「地域危険度測定調査」
※「地震に関する地域危険度測定調査」の詳細については、東京都都市整備局のページをご覧ください。
豊洲駅周辺のように、表層地盤増幅率が高く、「液状化の可能性が高い地域」及び「沖積層エリア」に該当する埋立地で、周辺のボーリング調査からも地盤リスクが把握できる場所の“地震リスク”が低いとは到底思えません。
浸水可能性
過去の災害でも、地震の次に被害を出している「水害」に関して、両駅周辺を比較してみます。
東池袋駅は、地形図で見ると、駅の北側は谷底低地で、南側は台地斜面となっています。上述の通り、東池袋駅周辺の台地比率は7割に達しますが、駅の敷地付近は、地形的にはあまり良い場所ではありません。
特に、駅の北側の谷底低地は、現在は暗渠となっている水窪川流域に掛かっています。そもそも、昔は川が流れていたから、地形が「谷底低地」となる訳です。台地エリアにも川が流れる谷底低地があれば、凹地や窪地もあります。その場所の浸水リスクをよく調査しましょう。
対して、豊洲駅は、ピンポイントで浸水リスクのある場所があるという訳ではなく、駅周辺の過半のエリアにリスクがあります。
駅周辺の標高は約2m~4mです。昨今、想定外やら想定を超えたなどという言葉を毎年のようにニュースで聞くようになりましたが、そのような想定を超えたスーパー台風などが、満潮のタイミングで東京を直撃した場合、ハザードマップの数値を超える浸水被害もあり得ます。
ハザードマップというのは、ある一定の想定の下に作成されたものです。地形や標高などを吟味し、役所が想定している2倍の雨量や高潮でも問題のないような立地を選びましょう。
駅利用客数・人口・世帯数
最後に、不動産の資産性に軽く触れます。
不動産の価値に最も影響を与えるのは、人口や集客数です。要は、人が集まる街の不動産の価値は上がります。
その観点から、「東池袋駅」と「豊洲駅」を比較しますと、豊洲駅の方が駅利用者が多いです。
そして、人口はほぼ同じ。この人口や世帯数は、駅から半径1kmの円を描いた際に掛かる町丁目の合計です。
世帯当たりの人数が豊洲の方が多いので、豊洲駅周辺はファミリー層が好んで住んでいるということが分かります。
ファミリー層に焦点を当てた数字でも、これは裏付けられます。
では、豊洲駅周辺はファミリー層が住むのに適した街なのでしょうか?
海などの水辺が近く、「アーバンドック ららぽーと豊洲」もあり、子供を育てる環境は良好だと思います。
ですが、”住む“というのは利便性や坂道の少なさ等の快適性だけで判断してはいけないと思っています。
「家」というのは、家族が最も長い時間を過ごす場所です。
そこで求められる機能の第一は、『安全性』であるべきです。
大地震が来ても倒壊することなく家族の命を守り、千年に一度のスーパー台風が来ても浸水しない。
それこそが、利便性などよりも優先されるべき条件だと思います。
そして、「資産性」も安全な立地にある物件の方が長期的には高くなります。
地震で倒壊したり、スーパー台風で浸水したりした物件は「資産性」どころの話ではなくなるので。
災害に遭わない可能性を追求することは、「資産性」を維持・向上することにも繋がるのです。
《参照》
▼2022年度東京メトロ乗降人員
▼人口・世帯数 ⇒ 令和2年国勢調査
土地相場
●地価公示価格 ⇒ 駅から半径1kmの円を描いた際に掛かる町丁目内にある2023年地価公示価格の平均値 ●路線価 ⇒ 駅周辺で最高値の2023年相続税路線価 ※建物は、構造・グレード・築年等が同等なら同じくらいの価格になる筈なので、相場のエリア比較としては土地価格の比較が妥当と考えます。 |
「資産性」に関わることでもう一つ。両エリアの土地価格を比較します。
公示価格の比較では、東池袋駅周辺の方が高いですが、駅から1km圏内に池袋の繁華街が含まれるので、エリアとしての相場は高くなってしまいます。言い方を換えれば、徒歩圏に池袋の繁華街があるということです。
駅周辺で最も高い相続税路線価を比較すると、両駅はほとんど同じ水準です。東池袋駅周辺の方が安いくらいです。災害に対する安全性が高く、相場が同じくらいなら「東池袋駅周辺」一択です。
「家」を検討する際、様々な条件が気になりますが、どんな条件も「安全」には代えられません。
逆に、一生に一度くらいしか購入しない高い買い物である「家」を、地震の際に大きく揺れる可能性があるエリアで購入するというのは、ギャンブルが過ぎると思います。
住む場合に優先すること
くどいですが、東京都区部に住むなら「武蔵野台地エリア」を選びましょう。
大地震の際の揺れが小さく抑えられる可能性があり、水害被害に遭う可能性もぐっと低くなります。
大地震からも、大水害からも、家族の命と財産を守るなら、「武蔵野台地エリア」に住むべきです。
元千葉大学理学部地球科学科教授 水谷武司先生は、ご自身のホームページで、
「ゼロメートル低地の利用を抑え台地に市街を拡げていたとした場合、東京区部の自然災害リスクは5分の1程度になると算定される。」
と書かれています。
これは、行政の立場からの全体的なリスク試算ですが、個人においても、同様だと思います。住む場所を武蔵野台地エリアにするだけで、自然災害で「命を失う・ケガをする・家を失う」等のリスクは数分の1程度になると思われます。
Live West!
東京では、「西」に住みましょう!
そして、「武蔵野台地エリア」の中にも、良い場所とあまり良くない場所があるので、更に選別するべきでしょう。
※そこから先の話は、本サイトの他記事や〔防災マンション東京〕をご覧ください。
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最後に念のために付け加えますが、豊洲などの湾岸埋立地帯に住む人を貶めたい訳ではありません。
私が憤りを感じているのは、そこに住むリスクも伝えずに、危険箇所を勧める業者に対してです。
少し前にも、「浸水危険地域への居住が309万世帯も増えた」とする山梨大学の秦康範准教授の調査結果が話題になりました。
これから新しく家族と暮らそうとする方たちに、災害リスクをキチンと伝えたいのです。既に住んでいらっしゃる方には耳障りな情報になると思いますが、未来の被害者を減らす取組みだとご容赦頂ければ幸いです。