II.収益不動産編
ここから、収益不動産についても触れたいと思っています。
実は、不動産鑑定士は、収益不動産の専門家です。
少なくとも東京で不動産鑑定士をやっている人は、収益不動産のエキスパートです。
不動産鑑定士は、金融機関(ファンド等)の保有資産の時価や担保価値を査定する仕事をしているので、サラリーマン大家さん等ではない、プロ中のプロが保有する収益不動産を評価しなくてはならず、その査定の根拠について、金融のプロや公認会計士から厳しい突っ込みを受けることが多いです。
先日も、ある収益不動産の鑑定書を出したところ、そこの会社の公認会計士から、
●総収入の査定根拠をご教示下さい。
(例 実績の平均値、稼働率・入居一時金・月額利用料・駐車場収入の予測 等)
●賃料の下落率の計算根拠をご教示下さい。
(例 地域の実績、将来シミュレーションで使用したデータ 等)
●各項目について、採用した数値の根拠をご教示下さい。
(例 空室率、大規模修繕費用、還元利回り(割引率) 等)
●一時金の運用益の計算根拠をご教示下さい。
等々の指摘を受けました。
※この他にこの不動産固有の指摘が10個ほどあります。
つまり、前回も触れましたが、不動産鑑定士はその不動産の価格が形成される過程・根拠について、すべて説明できなければならないのです。
※考え方の違いによっても数字は変わるので、査定額は鑑定士によって変わりますが、それぞれの価格の根拠については説明できるはずです。
収益不動産の場合、一番大切なのは、その時点の価格(数字)ではなく、将来をシミュレーションした上で導き出される“採算性”の筈です。
将来のシミュレーションをしないで収益不動産を購入するのは、無謀とまでは言わないですが、大きなリスクを孕むことは間違いがないと思います。
「不動産投資」を謳う本を読んでいて、一番疑問に思うのが、耐用年数を過ぎた築古木造アパートの減価償却の箇所です。
何冊か同じようなことが書いてあったのですが、
「減価償却では、築古木造アパートがお勧め。法定耐用年数を超えた木造アパートなら、4年間で減価償却できる。」
というものです。
これ、減価償却の方法論には全く異存はないのですが、こんな物件、簡単に見付かりますか?
大抵、法定耐用年数を超えた建物と土地値を50:50で見積もり、一体で8,000万円の物件を買えば、建物は4,000万円なので、買ってから4年間、毎年1,000万円の減価償却費を落とせる、と謳っています。
でも、耐用年数を過ぎた木造の建物と土地値が同じって、どんだけ土地値の安いところだよ、って思いますし、仮に土地値の安いところだと、空室リスクが大きいですよね。
売買の際に、売主さんと交渉して建物価格(比率)を高くしてもらう、という話もありますが、行き過ぎた建物価格は税務署から否認されますので注意が必要です。
※数千万円程度までの物件なら、そんなに厳しく指摘されないという話も聞きますが。
収益不動産も、購入するのであれば、不動産鑑定士等の専門家のシミュレーションを入れることをお勧めします。
「サブリース」等の賃料保証をする管理会社さんのシミュレーションは、賃料収入がほとんど下落しない等の不自然なものが多いです。
第三者の視点でのシミュレーションをしてもらってから、購入の是非を判断するべきでしょう。