今回は、浸水リスクについて問題を出します。
水害から命を守ることを前提として住まいを選ぶ場合、『安全な場所』というのは「高台」です。
地形的には、問題にするまでもありません。
立地(地形)という観点ではなく、昨今の水害についておさらいをしながら、水害だってやっぱり怖いのだから「高台」に住もうと思っていただけることを目指します。
水害リスクは高まっている

地球温暖化に伴う気候変動の影響により、大雨や短時間強雨の発生頻度が高まっています。
頻度だけではなく、一回当たりの降水量も増大しています。
そして、今後も頻度・降水量ともに増加することが見込まれています。
「水害」というのは、短時間に大量の雨が降ることで発生します。
しとしとと小雨が1ヶ月降り続いても水害は発生しません。(土砂災害の可能性はありますが)
「水害」から身を守るために認識していただきたいのが、
●昔の経験は役に立たない
→「以前来た台風でも氾濫しなかったから大丈夫でしょ」等の思い込みは捨てる。上図にもあるように、以前の雨量を上回る可能性があるのだから。
●気象庁の発表を額面通りに受け止める
→現在の気象予報の精度は昔と比較にならないほど高レベルなのは分かっている筈。だったら、「危険」と発表されたら、それを額面通りに受け止めて避難する。
この2点です。
地震と異なり、大雨はかなりの確度で予想ができます。気象庁が「危険」と報じたら、素直に避難しましょう。
それに、本当の大雨になってから避難するのは大変ですよ。予報の段階に(雨が降り始める前or小雨のうちに)、安全な場所に「訓練」や「合宿」のようなつもりで事前避難をするのがお勧めです。
※本当の一番のお勧めは、「高台」に住むことですが。
大水害に遭わないための防災クイズ(浸水基本編)
何らかの理由で「高台」に住めない人が、「大水害」に巻き込まれないために必要な知識をクイズ形式で学びましょう!
※すべての問題で正解を覚えていただきたいと思います。命にかかわることなので。
【第1問】水害の種類
市街地に大きな被害をもたらす水害の種類は「高潮」「河川氾濫」、あと1つは?
- 【1】ダム決壊
- 【2】地下街冠水
- 【3】内水氾濫
正解!
不正解...
正解は【3】内水氾濫です。
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【第2問】下水道の処理能力
下水道で処理できなくなるほどの大雨の目安は、次のうちのどれでしょうか?
- 【1】30mm/h以上
- 【2】40mm/h以上
- 【3】50mm/h以上
正解!
不正解...
正解は【3】50mm/h以上です。
一般的に排水施設が限度として想定している雨の目安は1時間50mmの雨です。なので、気象予報で「1時間50㎜を超える非常に激しい雨が予想されます」といっていたら、避難を考えましょう。
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【第3問】1時間50㎜以上の非常に激しい雨の年間発生回数
1時間50㎜以上の非常に激しい雨の年間発生回数は40年前と比較してどうなっているか?
- 【1】約3分の2に減少
- 【2】変わらない
- 【3】約1.5倍に増加
正解!
不正解...
正解は【3】約1.5倍に増加です。
このページの上にある図を見ると答えが書いてあります。1時間あたり50㎜~80㎜の雨は「非常に激しい雨」と呼ばれます(気象庁)。避難を要するような大雨は近年増加しています。
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【第4問】「氾濫危険情報」等の発表回数が最も多い川
都区内を流れる川のなかで、過去12年ほどの間に、「氾濫危険情報」や「氾濫警戒情報」が発表された回数が最も多いのは?
- 【1】荒川
- 【2】多摩川
- 【3】目黒川
正解!
不正解...
正解は【3】目黒川です。
目黒川が最多です。これらの情報は、河川の水位が上がり氾濫の恐れがある場合に発表される情報です。
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【第5問】目黒川(東京都)に氾濫危険情報等が出た回数
2012年12月以降、目黒川に氾濫危険情報や氾濫警戒情報が出た回数は、次のうちどれでしょう?
- 【1】2回
- 【2】5回
- 【3】9回
正解!
不正解...
正解は【3】9回です。
目黒川は、この12年ほどの間に9回も「氾濫危険情報」や「氾濫警戒情報」が出ました。溢水するリスクの高い川といえます。
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【第6問】自治体から発令される避難情報のうち、全員が避難すべき警戒レベル
自治体から発令される避難情報のうち、全員が避難すべき警戒レベルは、次のうちどれでしょう?
- 【警戒レベル3】高齢者等避難
- 【警戒レベル4】避難指示
- 【警戒レベル5】緊急安全確保
正解!
不正解...
正解は【警戒レベル4】避難指示です。
全員が【警戒レベル4】の「避難指示」までに必ず避難すべきとされています。「うちは大丈夫」などと高をくくることなく、額面通りに受け取って素直に避難しましょう。
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【第7問】ハザードマップ外なのに浸水により人的被害が発生
大規模浸水が発生した際、ハザードマップで色が付いていない(危険箇所と想定していない)場所で犠牲になった人の割合は?
- 【1】2割弱
- 【2】4割弱
- 【3】6割弱
正解!
不正解...
正解は【3】6割弱です。
1999年~2018年の豪雨による犠牲者発生位置とハザードマップを照らし合わせた調査の結果、ハザードマップ内の犠牲者の割合は42%だったとのことです。
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【第8問】洪水等の犠牲者のほとんどが発生している地形
洪水等の犠牲者のほとんど(93%)が発生している地形は、次のうちどれか?
- 【1】高台
- 【2】台地斜面
- 【3】低地
正解!
不正解...
正解は【3】低地です。
水は低い方に流れていくので、浸水が低地で発生するのは当たり前ですよね。その「当たり前」を本当の意味で自分の中に落とし込む必要があります。
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防災クイズ(浸水基本編)の解説
【第1問】解説
【第1問解説】 下水道の処理が追い付かなくて、街に水が溢れてしまうのが「内水氾濫」です。 東京都区部に住んでいる方は、河川氾濫よりも発生可能性が高い水害でしょう。 2024年7月、北区赤羽で1時間100㎜を超える降水量を記録し、道路の冠水や住宅の床下浸水等の被害が発生しました。 雨の勢いが強かったため、高架となっている京浜東北線も運転を一時見合わせる事態となりました。 下図は、東京都建設局が公開している「浸水リスク検索サービス」のキャプチャ画像です。 色が付いているところが浸水リスクのある場所ですが、荒川や多摩川などの大河川の氾濫は考慮されていません。 |

【第2問】解説
【第2問解説】 東京などの大都市では、1時間あたり降水量50mmを許容量として下水道や都市河川を整備しています。 地下トンネルなどに水を逃がすことで溢水を防ぐ施設が建設されていますが、これにより増加する許容量は1時間あたり75㎜程度です。 今後、想定外の降水量を降らす雨が増え、1時間あたり100㎜を超えるようなゲリラ豪雨などが当たり前のようになったら、あちこちで「内水氾濫」が発生しても不思議ではありません。 このような事態になっても、既に「想定外」ではないと思っています。 |

【第3問】解説
【第3問解説】 1時間あたり50㎜~80㎜の雨は「非常に激しい雨」と呼ばれます(気象庁)。 「非常に激しい雨」が発生すると、第2問でみたように、「内水氾濫」の被害が出る可能性が高くなります。 そして下図のように、ゲリラ豪雨のような一時的な雨だけでなく、台風などの総降水量も地球温暖化の影響で増大することが試算されています。 今までは、水害に無縁だった場所でも、浸水する可能性が高くなってきていることが分かります。 より保守的に立地の安全性を評価しなくてはなりません。 |

【第4問】解説
【第4問解説】 「氾濫危険情報」や「氾濫警戒情報」というのは、河川の水位が上昇し、氾濫の恐れがある場合に発表される情報です。 「指定河川洪水予報データベース」の「河川別の発表回数」で当該河川をクリックすると、個別の河川ごとの「指定河川洪水予報」履歴を見ることができます。 これで、重複する日付等を削除して、氾濫する可能性があった事案を数えると、目黒川に最も多くの「氾濫危険情報」や「氾濫警戒情報」が出されていることが分かります。 ■指定河川洪水予報 洪水によって重大な損害が生ずるおそれのある河川では「指定河川洪水予報」が発表されます。 この予報の内容が「氾濫危険情報」や「氾濫警戒情報」等です。 《東京都区部の指定河川》 ●江戸川 ●荒川 ●多摩川 ●目黒川 ●渋谷川・古川 ●神田川 ●妙正寺川 ●野川 仙川 ●石神井川 これらの河川は、上述のように「洪水によって重大な損害が生ずるおそれ」があると国や都によって判断されているのだから、流域には住まないようにしましょう。 |

【第5問】解説
【第5問解説】 目黒川は、この12年ほどの間に9回も「氾濫危険情報」や「氾濫警戒情報」が出ました。 これは、これらの情報を出すための判断基準である「避難判断水位」以上に目黒川の水位が上がったことを示します。(下図参照) ただ、ここまでは「氾濫発生」は起きていません。 これを、 「何だ9回もギリギリまで水位が上がったけど、結局氾濫しないんだから、目黒川は大丈夫だろう」 と考えるのか、 「12年ほどで9回も氾濫の危険があっただなんて、目黒川は氾濫リスクの高い川だな」 と考えるか。 第3問でやったように、避難を要するような大雨は増加しているのです。 「今まで大丈夫だったから問題ない」 ではなく、 「今までの雨の降り方でギリギリなんじゃ、これからもっとすごい雨が来たらヤバくね」 と考えていただきたいと思っています。 |

※気象庁「指定河川洪水予報」からキャプチャ
【第6問】解説
【第6問解説】 全員が警戒レベル4の「避難指示」までに必ず避難すべきとされています。 【警戒レベル5】というのは、既に災害が発生している可能性があり、「逃げるには遅すぎるタイミング」なのです。「とにかく命を守る行動をとって」という、ある意味、もう助かるかどうかは運次第というレベルです。 よく「早め早めの避難を心掛けましょう!」という標語がありますが、避難が遅れると命に関わるリスクを負うことになるから、そう言うのです。 ゴロがいいから採用されている訳ではないのです。 避難をしたくないのであれば、最初から「高台」に住みましょう。 浸水リスクのある場所に住むのなら、避難情報には素直に従いましょう。 |

【第7問】解説
【第7問解説】 1999年~2018年の豪雨による犠牲者発生位置とハザードマップを照らし合わせた調査の結果、ハザードマップ内の犠牲者の割合は42%だったとのことです。 ※豪雨による人的被害発生場所と災害リスク情報の関係について [牛山 素行] 「ハザードマップ」は役に立たない、と言いたい訳ではありません。 「ハザードマップ」は絶対にチェックすべきです。 ただ、2024年9月に発生した能登の大雨でも、ハザードマップで想定されていない区域で大きな被害が出ました。 これには大きく分けると2つの要因があるように感じています。 ●ハザードマップというのは、過去の記録を前提とせざるを得ない ●ハザードマップの外は安全だとみんなが“誤解”している これについて書くと長くなるので、以前書いた記事をご参照ください。 https://ameblo.jp/akebonopochi/entry-12869121843.html 言いたいことは、ハザードマップは参考としつつも、地形や標高なども調べ、ハザードマップで想定する2倍くらいの豪雨が襲ってきても問題のなさそうな場所を選びましょう、ということです。 |
【第8問】解説
【第8問解説】 水は低い方に流れていくので、浸水が低地で発生するのは当たり前ですよね。その「当たり前」を本当の意味で自分の中に落とし込む必要があります。 ついつい、気に入った物件があると「地形的には低地だけど、そんな浸水なんて、まず起きないよね?!」と正常化バイアスを自分にかける人は多いです。 近くに川が流れていたり、その川の河岸と標高差があまりなかったり、地形的に台地に挟まれた谷地であった場合には、ハザードマップの範囲から外れていても、浸水リスクはあるということを“常識”にしないといけません。 「千年に一度」の想定を超えるような大雨が発生する時代になったと認識し、住む場所には高台(台地)を選んでいただきたいと思います。 |

【まとめ】絶対に水害被害に遭いたくないなら答えは一つ
ここまで挑戦していただいた八つのクイズの答えは、一つの正解に収れんします。 『高台に住むこと』です。 地震と異なり、水害はその発生が予測できます。 えてして、予測よりも被害が大きくなりがちなのが困ったものなのですが、それを踏まえて、予測よりも深刻に・保守的に情報を捉えて、より安全な行動をとっていただきたいと思います。 ですが、そもそも「浸水リスク」がほとんど考えられない場所に住んでいれば、水害についての心配がなくなります。 浸水リスクのある場所に住んで、梅雨や台風のシーズンになる度に、避難の準備をするのは疲れてしまうでしょう。 そして、対策に疲れた頃に大きな水害が発生するのです。 対策や避難が必要な場所は選ばないようにしましょう。 水害についても地震と一緒で、防災の一丁目一番地は、『安全な場所に住むこと』です。 |
《後記》このページのクイズ機能は、クイズ作成プラグイン「すみれ」を使用しています。
下水道の処理が追い付かなくて、街に水が溢れてしまうのが「内水氾濫」です。河川氾濫は「外水氾濫」ともいいます。他に甚大な被害を出す「津波」については、地震災害の範疇とします。