今回は特別編。
いつもは東京都区部の駅で比較をしていますが、SUUMOの「住みたい街ランキング2024 首都圏版」で1位となった「横浜駅」、2位の「大宮駅」、3位の「吉祥寺駅」の3つの駅を比較したいと思います。
3駅とも東京駅までは30分ほど。駅の周辺にも商業施設が集積し、利便性にも問題のないこの3駅周辺は、大地震や大水害に耐えられる街なのか?
災害に対する安全面から比較してみましょう。
地形
●標高 ⇒ 駅敷地の標高(国土地理院地図) ●地形 ⇒ 国土地理院地図の土地条件図 ●台地比率 ⇒ 台地比率の画像は、駅から半径1kmの円を切り取ったものです。国土地理院地図の土地条件図では、台地がオレンジ色で表示されるので、その部分の比率を出せば「台地比率」となります。 ※台地比率の詳細は、「駅の周囲1kmの高台比率ランキング(JR中央線)」をご覧ください。 |
まずは、3つの街がある場所の地形から見ていくことにしましょう。注目すべきは「台地比率」です。
何故「台地」の有無(比率)を比較するのかというと、関東大震災でも、台地の上と低地とでは震度が”1”ほども違ったと言われるからです。震度が”1”違うということは、低地が震度6のときに、台地は震度5で済む可能性があるということです。
当たり前の話ですが、建物は地震で揺れるから損壊します。揺れが小さければ、損壊リスクを減らせます。
また、「台地」は浸水被害も少ないです。水は低いところに流れますから、「低地」の方が浸水リスクが高いのは自然のことです。
大地震への対処としても、大水害への対処としても、まずは、「台地」を目指すというのは間違っていません。
この点から比較すると、吉祥寺駅周辺は8割超、大宮駅周辺は6割超のエリアに台地が広がっているのに対し、横浜駅周辺には台地が僅かしかありません。住まいの安全性を追求するなら、吉祥寺駅周辺または大宮駅周辺を選ぶべきでしょう。
地盤ハザードエリア
次に、駅の敷地が「地盤ハザードエリア」に掛かっているか否かを判定します。
「地盤ハザードエリア」とは、以下の地盤や地形に対する警戒・注意エリアを指します。
●液状化:市が公開しているハザードマップで液状化の可能性が指摘されているか否か。「液状化」が起きると、建物などの建造物が沈んだり傾いたりし、地中に埋めてあるライフライン(上下水道、ガス管等)が寸断される場合がある。 ●沖積層:最も新しく、まだ固まり切っていない軟弱な地層であり、この堆積エリアに該当すると、地震時に揺れやすい傾向がある。 ●埋没谷:地中の少し深い場所で柔らかい地層が連続することが特徴で、地震時に揺れを大きくする可能性がある。 |
これを踏まえて、3駅を比較すると、大宮駅・吉祥寺駅の敷地は「地盤ハザードエリア」に該当しません。
対して、横浜駅は駅の敷地だけでなく、駅周辺も広く「液状化の可能性がある地域」「沖積層エリア」に該当しています。
総じて、横浜駅周辺は、地震が起きると揺れが大きくなる可能性が高い立地だと思われます。
表層地盤増幅率
ここでは駅の敷地がある場所の「表層地盤増幅率」を見てみます。
「表層地盤増幅率」とは、その場所の表層部分の地盤が地震の際に揺れやすいか否かを判定したものであり、数値が大きいほど表層地盤の揺れも大きくなると想定されています。 ※国立研究開発法人 防災科学技術研究所「J-SHIS Map」 |
吉祥寺駅の地盤増幅率は「1.48」と良好です。J-SHIS Mapの数値と地震時の揺れが正確に比例する訳ではありませんが、地震の際の揺れが小さく抑えられる可能性が高い場所です。
大宮駅の「1.6~1.64」は標準的なレベルで、横浜駅の「1.7」は少し大きめというくらいの数値です。横浜駅は「液状化」「沖積層」のエリアに該当し、下記ボーリング調査の結果も良くないことから、もっと大きくても仕方がないように感じます。
揺れの大きさは、被害の大きさに比例します。
地震の際に揺れが大きくなる可能性が高いということは、次のような事態に繋がります。
1.建物が倒壊する可能性が高くなる。倒壊まではしなくても損傷する可能性は高くなる。 2.損傷個所が多くなる可能性が高いということは、修繕費用も高くなる。 3.家具などが倒れてくる可能性も高くなるので、家族がケガをする可能性も高くなる。 |
当たり前ですが、地震の際に「揺れやすい場所」には住みたくないものです。大災害の後には医療も逼迫するので、小さなケガも致命傷になりかねません。
家族の命を守るには、揺れが小さく抑えられる場所に住むべきでしょう。
ボーリング調査
ここまでの情報に関して、駅周辺にあるボーリング調査を見てみることで検証します。
横浜駅周辺にあるボーリング調査地点の柱状図を見てみると、表層に問題がない場所もあるものの、30m超の深さでもN値5未満の柔らかい地層が続く地点が多く、「軟弱地盤」と言える状況です。大地震が近くで発生した際には、深度7の揺れがあり得る場所です。また、地下水位が3m未満と浅く、液状化の懸念も拭えません。
大宮駅周辺にあるボーリング調査地点の柱状図を見てみると、浅い部分に柔らかい地層が残る地点が多く、かつ支持層が深いので、地盤が良い場所とはいえません。ただ、概ね10mより深いところはN値10以上あるようなので、地震の際に揺れが大きくなるような軟弱地盤ではありません。
吉祥寺駅周辺にあるボーリング調査地点の柱状図を見てみると、表層面に問題はないものの、深さ10mほどまでN値5前後の地層が続きます。ただ、そのすぐ下に支持層になり得る固い地層がある場所が多く、地盤は比較的「良好」な場所といえるでしょう。
能登半島地震でも、「軟弱地盤」エリアにあるビルが横倒しになっている映像が流れていました。地面に建物を支える力がないので、杭に掛かる力は相当なものとなったのでしょう。今後の大地震でも、ある程度の確率で存在する施工不良の杭は耐えられないのではないかと危惧します。
来たる大地震に備えて、という意味なら、1番のお勧めは吉祥寺駅周辺です。大宮駅周辺も、大きな問題はないと思います。横浜駅周辺は、大地震に備えるという観点だと怖さを感じる場所です。
既に住んでいたり、商売などの理由で横浜駅周辺を離れられない場合は、家具の固定などを台地エリアに住んでいる人よりも厳重に行うべきです。
浸水可能性
過去の災害でも、地震の次に被害を出している「水害」に関して、3駅周辺を比較してみます。
横浜駅周辺は標高が低いので、駅周辺の過半のエリアに洪水氾濫浸水リスクがあります。港町なので当然なのですが、海が近く、高潮による浸水リスクもあります。
大宮駅や吉祥寺駅は、地形図で見ると台地の上にあります。周辺で住まいを探す際にも、駅同様の台地上の立地を選べば、浸水リスクは気にしないで済む場所が多いでしょう。
昨今、想定外やら想定を超えたなどという言葉を毎年のようにニュースで聞くようになりましたが、そのような想定を超えたスーパー台風などが、街を流れる川の上流を直撃した場合、ハザードマップの数値を超える浸水被害もあり得ます。
ハザードマップというのは、ある一定の想定の下に作成されたものです。地形や標高などを吟味し、役所が想定している2倍の雨量でも問題のないような立地を選びましょう。
駅利用客数・人口・世帯数
最後に、不動産の資産性に軽く触れます。
不動産の価値に最も影響を与えるのは、人口や集客数です。要は、人が集まる街の不動産の価値は上がります。
駅利用客数及び人口・世帯数は、横浜駅周辺が圧勝です。横浜駅周辺の地価が高いのも納得できます。
※人口や世帯数は、駅から半径1kmの円を描いた際に掛かる町丁目の合計です。
本サイトでは、「住まい」の購入を検討する方をターゲットとしているので、焦点をファミリー層の人口・世帯数に当ててみます。
ファミリー層に焦点を当てた数字でも、横浜駅周辺の圧勝です。横浜駅周辺は、単身者世帯だけでなく、ファミリー層にも人気があることが分かります。
ただ、「家」というのは、家族が最も長い時間を過ごす場所です。
そこで求められる機能の第一は、『安全性』であるべきです。
大地震が来ても倒壊することなく家族の命を守り、千年に一度のスーパー台風が来ても浸水しない。
それこそが、利便性などよりも優先されるべき条件だと思います。
この観点からは、ファミリー層が横浜駅周辺に多いのは危険な状態だと言えます。単身者はどうなってもいいという意味ではなく、ファミリーの方が避難等のリスクが大きいので。
そして、「資産性」も安全な立地にある物件の方が長期的には高くなります。
地震で倒壊したり、スーパー台風で浸水したりした物件は「資産性」どころの話ではなくなるので。
災害に遭わない可能性を追求することは、「資産性」を維持・向上することにも繋がるのです。
《参照》
▼2022年度JR東日本乗車人員他各鉄道会社の乗降人員
▼人口・世帯数 ⇒ 令和2年国勢調査
土地相場
●地価公示価格 ⇒ 駅から半径1kmの円を描いた際に掛かる町丁目内にある2023年地価公示価格の平均値 ●路線価 ⇒ 駅周辺で最高値の2023年相続税路線価 ※建物は、構造・グレード・築年等が同等なら同じくらいの価格になる筈なので、相場のエリア比較としては土地価格の比較が妥当と考えます。 |
「資産性」に関わることでもう一つ。3エリアの土地価格を比較します。
ここでも、横浜駅周辺が圧勝です。他の2駅を大きく引き離しています。
大宮駅周辺よりも吉祥寺駅周辺の方が、公示価格の平均値も駅前の路線価も高いという結果です。上で見てきたように、大宮駅周辺も大きな災害リスクはないと思いますが、吉祥寺駅周辺の方が更に安全な場所です。災害リスクへの耐性で価格が決まっている訳ではありませんが、ここは順当としておきます。
今後は、大災害に強いかどうかという部分が、将来の資産性を左右することになるでしょう。
「家」を検討する際、様々な条件が気になりますが、どんな条件も「安全」には代えられません。
逆に、一生に一度くらいしか購入しない高い買い物である「家」を、地震の際に大きく揺れる可能性があるエリアで購入するというのは、ギャンブルが過ぎると思います。
住む場合に優先すること
くどいですが、住むなら「台地エリア」を選びましょう。
大地震の際の揺れが小さく抑えられる可能性があり、水害被害に遭う可能性もぐっと低くなります。
大地震からも、大水害からも、家族の命と財産を守るなら、「台地エリア」に住むべきです。
元千葉大学理学部地球科学科教授 水谷武司先生は、ご自身のホームページで、
「ゼロメートル低地の利用を抑え台地に市街を拡げていたとした場合、東京区部の自然災害リスクは5分の1程度になると算定される。」
と書かれています。
これは、行政の立場からの全体的なリスク試算ですが、個人においても、同様だと思います。住む場所を台地エリアにするだけで、低地エリアに住むよりも、自然災害で「命を失う・ケガをする・家を失う」等のリスクは数分の1程度になると思われます。
Live West!
東京では、「西」に住みましょう!
東京以外でも、「台地エリア」に住みましょう!
そして、「台地エリア」の中にも、良い場所とあまり良くない場所があるので、更に選別するべきでしょう。
※そこから先の話は、本サイトの他記事や〔防災マンション東京〕をご覧ください。
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最後に念のために付け加えますが、横浜などの埋立地エリアに住む人を貶めたい訳ではありません。
私が憤りを感じているのは、そこに住むリスクも伝えずに、危険箇所を勧める業者に対してです。
少し前にも、「浸水危険地域への居住が309万世帯も増えた」とする山梨大学の秦康範准教授の調査結果が話題になりました。
これから新しく家族と暮らそうとする方たちに、災害リスクをキチンと伝えたいのです。既に住んでいらっしゃる方には耳障りな情報になると思いますが、未来の被害者を減らす取組みだとご容赦頂ければ幸いです。