今回は、番外編として『不動産鑑定士』とは何なのかをお話ししたいと思います。
1.不動産鑑定士
「日本不動産鑑定士協会連合会」のページに、
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不動産鑑定士は、地域の環境や諸条件を考慮して「不動産の有効利用」を判定し、 「適正な地価」を判断します。つまり、不動産鑑定士は、不動産の価格についてだけでなく、不動産の適正な利用についての専門家でもあります。
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という説明があります。
今一つ分かりにくいので、少し下世話な面も含めて説明したいと思います。
(1) 公証力を認められているのは不動産鑑定士の出す価格だけ
相続で裁判になり一方は不動産を高く見積もりたい、もう一方は安く見積もりたいという場合、どうすればいいでしょうか?近所の不動産屋さんに価格査定をしてもらえばいいのでしょうか?
裁判や税務・会計の分野で、不動産の価格について“公証力”があると認められているのは『不動産鑑定士』が査定した「不動産鑑定評価額」だけです。“公証力”とは、公に証拠として認められるレベルがあるというような意味合いです。簡単にいうと、不動産鑑定士が査定する不動産価格が一番信頼できる、と国が認めているのです。不動産鑑定士が査定した不動産価格以外は、証拠として採用することはできず、公には信用できない価格とされます。
いわゆる不動産屋さん(大手も含みます)が個別の不動産について査定価格を出すのは、あくまで参考価格としてなので認められているのです。あなたの不動産の本当の価値はこれです、という意味ではなく、これくらいでなら売れると思うのですが、、、というある種の「意見」価格なのです。 |
(2) 不動産鑑定士という資格の難易度
『不動産鑑定士』という資格を取るには、不動産業界では最も難易度の高い試験に通る必要があります。どのくらい難しい試験なのかというと、
●公認会計士試験と単位交換ができる。(“格”としては公認会計士試験と肩を並べる。)
●働きながら勉強して合格、というのは難しい。合格に必要な勉強時間が、2,000~5,000時間と言われています。
●試験が「論文式」(一科目は短答式)。ボールペンで、ひたすら書きまくる必要があります。
例えば、民法の問題の例を挙げると、
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【問題】
Bは、A所有の土地を賃借し、その土地に木造アパートを建て、これらをCに賃貸して引き渡した。これを前提にして次の問(1)及び(2)に答えなさい。
(1) Aは、CらがAの承諾を得ないで本件土地を利用していることを理由として、A・B間の土地賃貸借契約を解除することができるか?
(2) 本件建物は、建築から数年後にBの雇った管理人の過失によって全焼し、Bは直ちに同様の建物を再築した。この場合の[1]A・B間の土地賃貸借契約関係及び[2]B・C間の建物賃貸借関係の帰趨について論じなさい。
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というもので、このような問題が民法の試験として2問出ます。解答用紙は、下の画像のような、B4横書き25行の原稿用紙が1科目につき4枚配布されます。なので、1問につき、2枚で解答することになります。
この原稿用紙を前にして、「事例分析」を行い、「論点」に漏れがないか抜き出した上で、論点ごとに答案を構成していきます。
宅建やマンション管理士等他の試験の民法とは、試験の構造が異なるので、〇倍難しいとか倍率で比較できないほどレベルの差があります。
(3) 不動産鑑定士の人数
『不動産鑑定士』の登録数は、全国で8,300人ほどです。
※宅建士は、この100倍以上、全国に100万人以上います。
難易度の高い資格なので、ただでさえ人数が少ない上に、公示価格や路線価等の公的な仕事に携わる人が多いので、エンドユーザー(最終消費者)向けにその知見を還元している不動産鑑定士は非常に少ないのが現状です。
(4) 不動産鑑定士の知見
『不動産鑑定士』は、上でも触れたように国民財産の中でも重要な不動産の公証力を担う存在です。そのため、「不動産とは何か?」というところから勉強しています。
ここを突き詰めて説明すると非常に長くなってしまうので、簡単に宅建士と比較しますと、宅建士は「今、マーケットにある不動産」の取引についての資格です。取引において消費者を騙してはダメですよ、という資格です。不動産についての勉強は資格に組み込まれていません。なので、不動産に詳しくなりたくて宅建士の勉強をするという人がいますが、少し的外れということになります。
『不動産鑑定士』は、そもそも当該不動産はどのような不動産なのか?から評価します。地盤や建物の構造、権利関係等を勘案して、その取引価格に見合うだけの価値のある不動産かどうかを判断します。
以上のような、エンドユーザー(最終消費者)のお役にも立てる筈の資格なのですが、知名度がビックリするくらい低いです。商店街では、「宅建より下でしょ?」と言われたこともあります。よく聞く名前の方が上だと思っちゃうんでしょうね。
『不動産鑑定士』をもっと身近なものにしていきたいと願っています。不動産の取引ではなく、“不動産”そのものに対しての疑問(この家って買ってもいいと思う?)などでしたら、不動産鑑定士が世の中で一番詳しいと断言できます。