サブリース編
(1) サブリースのリスク
「サブリース(一括借上げ)」とは、不動産所有者から建物一棟を丸ごと借り受け、管理も請け負い、個別の部屋を転貸する仕組みです。不動産オーナーからすれば、任せておけば、管理から貸室への客付けまでやってくれ、空室が出ても家賃保証までしてくれる“ありがたい”存在です。
但し、“ありがたい”だけではないのがこの業界の“裏の面”です。
最近では、賃貸物件の管理をしてくれる業者を探すと、大抵「サブリース(一括借上げ)」を勧められます。
「サブリース(一括借上げ)」を管理会社に依頼すると、10%~15%程度の手数料を取られます。
この手数料は、管理会社が転貸で貸し出している実際賃料から10%~15%を引いた額をオーナーに戻すということであり、この引かれた分、自分で貸すより収入減になることを前提に、「サブリース(一括借上げ)」のメリットとデメリット(以下に挙げるリスク)をよく比較して考えていただきたいと思っています。
サブリースも、通常の賃貸借契約とみなされる
『通常の賃貸借契約』とみなされて、何がまずいのかと言うと、借地借家法の観点からは、貸主が個人のオーナーで、借主がサブリース業者になることです。
借地借家法は“借主保護”の法律ですから、「10年間賃料保証」や「解約自由」と書いてあっても、“借主”が不利な条項とみなされると、裁判では無効となる場合があります。つまり、“借主”であるサブリース業者から「賃料減額」の申し出があると、“貸主”であるオーナーは協議に応じないといけない訳です。頭に来て、「解約だ!」と言い渡しても、サブリース業者は“借主”なので、簡単には解約できません。それどころか、逆にサブリース業者から「賃料の減額に応じないのなら、解約します。」と言われると、“貸主”であるオーナーは“借主”からの申し出を受けない訳にはいかないのです。
最近では、開き直ったか、すごく貸主にプラスなことを書いている契約書も見ます。
どうせ裁判になれば勝てる、と思っているのでしょうか。
※分かりやすくするために、言い切っています。言葉としては多少の語弊を招く可能性がありますが、問題の本質は上述の通りです。
「サブリース(一括借上げ)」は、契約書の作成も借りる側が行っており、賃料保証を謳い文句に、強引な営業があったことも指摘され、最高裁で判決が出るまで、借地借家法の適用は必要ないのではないかと大いに議論されたのですが、結論としては「借地借家法」の適用が認められました。
なので、「サブリース(一括借上げ)」に関しては、契約書だけではリスクヘッジにならなくて、そもそも契約当時の約束「10年間賃料保証」やローンの支払いに問題がないことを謳う30年間のシミュレーション等がなければ契約しなかったという証拠が必要なのではないかと思っています。
築後10年を過ぎると、解約される?
新築してから最初の10年間というのは、賃料も高く設定でき、修繕もほとんど必要のない、非常に「採算の良い」期間であると言えます。
この『築後10年で解約』のリスクは、築10年が過ぎて競争力が落ち、賃料を安くしないと入居してもらえず、建物にもガタが来て修繕費用も諸々発生し始める、このように採算が悪化する時期を迎えるとサブリース(一括借上げ)を解約される場合があることです。
そもそも、新築の建物の管理に、賃料の10%や15%はかかりません。築10年未満なら、物件としての競争力もあるので、入居者も見付けやすいです。空室も発生しにくく、管理・修繕にも金がかからない最初の黄金の10年間をサブリース業者にくれてやるなんてもったいないです。
家賃設定
サブリース業者が設定するエンド向け(転貸での一般消費者向け)賃料は、周辺相場と比較して高いでしょうか、低いでしょうか?
もし相場より低い場合、相場より低くすれば誰でも埋められるのに、そこから更に手数料を引かれてしまうなんて、本当にサブリース業者に依頼する必要があるのでしょうか?
逆に賃料を高くして埋めてくれるなら、サブリース(家賃保証)をして良かったといえます。
サブリース業者の中には、エンド向けの契約内容や賃料はオーナーには知らせない、という取り決めをしているところもあります。ですが、エンド向けの契約内容や賃料が分からなかったら、きちんとサブリース業務をしているのかのチェックができません。
固定の貸料を転貸料として支払ってくれているのならしょうがないですが、15%等の変動制ならば、エンド向けの賃料はオーナーも把握するべきです。
以前、ご相談いただいた事例では、サブリース業者が提出してきた収支報告書と、実際の賃貸借契約内容が異なる場合がありました。
エンド向けの契約内容や賃料を、オーナーに知らせないことで、自分たちの都合のいいように数字をいじっている可能性があります。
高い建築費・修繕費
賃貸マンション等の「建設から賃貸管理」まで、丸ごと一括して請け負ってくれる業者(ハウスメーカー等)の場合、建物建築費が相場より高い場合があります。
「かぼちゃの馬車」や「TATERU」等の融資資料改竄事件でも、そもそも物件価格も上乗せして相場よりも高い価格で個人投資家に売却していたことが明らかになっています。
この高くした分を、賃料保証の原資にしていた訳です。
これと同様のことは、ハウスメーカー等の「建設から賃貸管理」まで一括して請け負ってくれる場合にも当てはまる場合があります。
「相みつを取りましょう!」というと、一括方式をやってくれる業者の相みつを取る方がいますが、賃貸マンション等の建物に関しては、その建築費だけを比較するために工務店等からも建築費の見積もりを取っていただきたいです。
また、修繕費にも注意が必要です。
契約書に「修繕は、管理会社が指定する会社が行うものとする。」と謳われている場合、修繕費がすごく高くなる場合があります。
賃料保証をすることは、サブリース業者にとってリスクでもあります。空室が思ったよりも多くなったりすると、実際の(転貸)家賃収入が、賃料保証賃料よりも下回り、いわゆる「逆ザヤ」になることがあるためです。そのため、様々な局面で、オーナーから金を吸い上げる仕組みができています。
自分たち(サブリース業者)のリスクを限りなく小さくするという意味では、良い仕組みだと思いますが、オーナー側は、それを踏まえて、自己防衛を図らなければなりません。
以上の通り、「サブリース(一括借上げ)」は、契約書に書いてあるからって安心できず、業者にとって旨みがなくなると解約され、建築費や修繕費でもぼったくられる(可能性のある)契約です。
ただ、仕組み自体は、悪いものではありません。上記のリスクを業者と交渉して潰した上で、「儲かる!」と判断できるのであれば、「サブリース(一括借上げ)」は積極的に使ってもいいでしょう。
「サブリース(一括借上げ)」は、相続税対策等では有効ですし、遠い場所の物件を管理する場合にも必要な仕組みだと思います。ただ、上述したようなリスクがあることを前提に、しっかりと契約前に内容をチェックしてもらいたいと思います。
オーナー側が“いいところ取り”ができますように。