マンションか戸建か (処分・変更の自由度から比較)

3.マンションか戸建か

前回まで“安心安全”“資産性”について書きました。
マンションにも戸建にも通じる要素が多いですが、主に「マンション」購入を対象にしています。今回は、都心部で『住居』を選ぶなら、「マンション」か「戸建て」のどちらがいいのか、について不動産鑑定士の立場から述べます。

(1) 処分・変更の自由度
(2) 大地震の際の倒壊リスク
(3) セキュリティ
の3点から見ていきたいと思います。

(1) 処分・変更の自由度


「処分・変更の自由度」というのは、権利的には『所有権を行使できる範囲の広さ』とも言い換えられます。これについては圧倒的に戸建てに軍配が上がります

ここでの『処分・変更』というのは、買った家を自分の思い通りにできるか、ということです。つまり、戸建ては、都市計画法や建築基準法等の縛り(以下、[法的な規制]という。)はあるものの、基本的には買った家が気に入らなかったら壊して建替えてもいいし、外壁を好きなように模様替えできます。どう使うかも自由です。

それに対して、マンションは、敷地や廊下もそうですが、バルコニーや窓、玄関ドア等も共用部なので、買ったからといって好き勝手には変更できません。完全な所有権ではなくて、『専有面積割合による所有権の共有』なので。

要は、マンションを買う、というのは室内空間を買う、という意味だということを理解していただきたいと思っています。
恐らくこれから非常に大きな問題になると思われるのが、建替えをするのがとにかく難しいと思われることです。区分所有者及び議決権の各五分の四以上の賛成が、建替えに必要なので、入居者の高齢化が進んでいたり、投資用で部屋を購入しているオーナーの比率が高いマンションは建替えが難しいのです。

例えば高齢化が進んだマンションだと、もう先が長くないからお金をかけて建て直してもしょうがないとか、そもそもその資金がない等の問題で賛同を得ることが難しい場合があります。また、投資用として購入したオーナーが多い場合には、投下資金回収のスパンにズレが生じて、古いマンションを安い価格で買って、短期で投下資金を回収しようと思っているオーナーは、追加で資金が必要となる建て替えには反対することがあります。

それで、建替えができないと、ゴーストタウンならぬゴーストマンション化するのではないかと危惧されています。建物が古くなり、居住を続けるのに支障が出てくるから建替えという話が出てくるのに、それができないとなると、ちゃんとした部屋に住みたい、資金力のある住民から引っ越していってしまうのです。それで余計に、建替えが難しくなります。そのうち、築五十年や六十年の古ぼけたマンションとなり、売ろうと思っても売れなくなるのです。売れないから放置され、空室が増える。空室が増えると、管理費や修繕積立金の滞納も増えていく。とマイナスのスパイラルループに陥ってしまうのです。

ある程度古いマンションを購入するのであれば、管理組合がまとまっていることや、建替えに向けて議論されていること等を確認する必要があります。
この確認は、売主にお願いをして、管理組合の理事会や総会の議事録等を見せてもらった上で、質問するのがいいでしょう。

『マンションは管理で買え』と言われるくらいなので、本来は管理組合がしっかりしているかどうか事前に確認できないと〝購入〟という大きな決断はしてはいけないと思うのですが、実際にはプライバシーの問題もあり、買付証明書を提出した後に見せてもらうという段取りになると思います。

この購入するかしないかの決断に必要な情報を事前に出してくれるかどうか、というのは業者を見極める大きなポイントになると思います。大手でも、こっちから請求しないと固定資産税評価額も出してくれないことがあるので。

築浅のマンションの購入を検討している人には関係ないと思うかもしれませんが、マンションの『資産性』“肝”ともいえる部分なので、気にしていただきたいポイントです。
確かに築浅のマンションでは、建替えは先過ぎて管理組合でも議論の俎上にも上っていないでしょう。ただ、マンションを買おうと思うなら、管理組合がしっかりしているかどうかは気にした方がいいでしょう。築浅のマンションは、管理組合もあまり活発に活動していないことが多く、管理組合の議事録にも当たり障りのないことしか記録されていない方が普通と言えるかもしれませんが。

築浅のマンションを購入する場合でも、『資産性』を念頭に、売却価格を想定していただきたいのですが、住み始めると、十年って結構すぐに経つと思います。子供ができて小学校に入ると、卒業するまでは転校が必要な引っ越しはしないでおこうとかって思いますし。

建て替えが実際に協議されるのは築三十年以上経ってからのことが多いですが、築十年のマンションを買って、二十年住んだら、売ろうと思った際には築三十年のマンションを売る訳で、建て替え問題が世の中で今以上に大きく取り上げられていたら売却は難しくなるかも知れません

戸建を買うのとは違い、マンションを買うというのは、マンションの建物が老朽化するまでの数十年という長いけれども有限の時間に対してお金を払うということなんだという認識が正しいと思います。勿論、一戸建ても建物はいつか老朽化しますが、建替えやリフォームなんかは、マンションに比べたら何倍も楽にできます。自分一人のものなので、好き勝手に。

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「不動産鑑定士」として相談を受けているうちに、物件購入を検討する多くの方が主客転倒(※)のアプローチをとっているのではないかなと疑問に思うことが多く、物件購入を検討する前に知っておいていただきたい不動産の基本についてお話ししたいと思っています。
現在「マーケットに出ている物件」を前提に考えるのではなく、そもそもどんな不動産がリスクも少なく、資産性も保たれる可能性が高いのかを考えていただきたいと思っています。