マンションか戸建か (大地震の際の倒壊リスクから比較)

3.マンションか戸建か

前回、マンションを買うといっても、厳密には完全な『所有権』を手に入れる訳ではなく、あくまで他の居住者との『共有』である、という話をしました。
その点においては、「戸建て」に軍配が上がりますが、他の点ではどうでしょうか。今回は、建物について比較検討してみます。

(2) 大地震の際の倒壊リスク


『大地震の際の倒壊リスク』
『建物』『地盤』の二つに分けて考えます。

(a) 建物のリスク

1981年6月以降に建築確認済証が交付された建物が『新耐震基準』となります。
『新耐震基準』は、1978年の宮城県沖地震を受けて改正されたもので、震度6強から7に達する大規模地震で倒壊・崩壊しないことを建物の強度に求めたことが特徴です。

壊れないことを前提にするのではなく、倒壊しない、つまり中規模の破損がることは仕方がない、ただ、建物が崩れたり倒れたりといった人命に決定的な被害を生じる事態を生じさせないことを目指しているものです。
新耐震だったら絶対に倒壊しないとは言い切れないのですが、倒壊しない確率が高くなるのは間違いがないと思います。過去の大震災でも、新耐震の建物の方が被害が少なかったことが報告されていますし。

(b) 地盤のリスク

次に『地盤』ですが、これはデータで示せる訳ではないのですが、『高台』をお勧めしています。
東日本大震災の際に、東京も結構揺れましたが、高台に住んでいる人からはあまり「本が落ちてきた」とか「皿が割れた」という話は聞きませんでした。低地と比較すると、高台の方が多少は揺れが小さかったんじゃないかと思っています。

更に、災害は地震だけではなく、最近では毎年のように想定を上回ってくるゲリラ豪雨やスーパー台風なども脅威です。水害リスクを考えても、立地は高台を選ぶべきだと思っています。

つまり、高台にある新耐震の建物をまず前提にして頂きたいと思っています。
やはり数千万円を費やして、ある意味、人生をかけて購入する家なので、できるだけ安全で、将来も壊れずに存続する可能性の高いものを選んで頂ければと思います。

(c) 資産性

『資産性』のところでも触れましたが、この『大地震の際の倒壊リスク』は、資産性にも大きく関係します。大地震による損壊の程度は資産性に比例します。倒壊や大破してしまったら建物の価値はゼロです(土地の価値は残りますが)。

また、倒壊はしなくても損壊の程度が大きければ大きいほど、修繕費は高額になり追加出費が必要となります。高額な修繕費という意味でも『資産性』に影響があると思いますが、将来の売却可能性についても、過去に大きな損傷があった建物を購入しようとする人は少ないでしょう。

倒壊リスクの小さい建物を選ぶということは、命を守るという意味だけでなく、資産を守ると考える上でも大切なことなのです。

(d) 木造住宅の大地震時の倒壊リスク

一戸建て」についてですが、都心部で戸建住宅を買おうと思ったら、一部のお金持ち以外は、「狭小地に建つ木造3階建住宅」が対象になると思います。なので、ここでは「戸建て」は、「狭小地に建つ木造3階建住宅」を指すことにします。

少し話がそれますが、2016年4月に発生した熊本地震のとき、益城町で新・新耐震といわれる2000年基準に則って建てられた木造住宅が無残に倒壊した映像をご覧になったことがあると思います。非常に残念なことなのですが、この基準に則れば倒壊しない筈ということで建築された木造二階建て住宅がぺっちゃんこになってしまった事実は、我々不動産業界にも衝撃を与えました。

『新・新耐震』とは、2000年6月以降に建築確認済証が発行された木造建物に適用されている、耐震性を高めた基準で、地盤調査(地耐力調査)を必須にしたり、筋交い等が外れないように固定金具が指定されたり、バランス計算を義務化して耐力壁が偏りがちになることを防いだりすることを目的とした建築基準法の改正でした。
新・新耐震(2000年)基準の木造住宅は、それ以前の木造住宅より地震に強い筈なのです。

何故、その新・新耐震(2000年)基準の木造住宅が熊本地震で倒壊したのか?については、それについて話をし始めるとそれだけですごく長くなるので、ご興味がある方は国土交通省が発表している資料をご覧になることをお勧めしますが、この新・新耐震(2000年)基準の木造住宅が壊れたことで、『直下率』『表層地盤』が改めて注目されました。

( i ) 直下率

熊本地震で、新・新耐震(2000年)基準の木造住宅が倒壊した原因の100%が『直下率』の低さという訳ではないのですが、この比率の低い建物は「大地震の際に倒壊リスクが増す」ということが改めて分かりました。

『直下率』とは、1階と2階で重なっている柱や耐力壁の割合のことです。具体例を挙げると、1階に広いリビングルームがあって、2階が細かく部屋に分かれている家。3階建てだと、1階に駐車スペース、2階がLDK、3階が2部屋という家などは、『直下率』が低い家の典型例です。

『直下率』が低いと倒壊する、と直接的に繋がる訳ではないことは改めて述べますが、『直下率』が高い家よりは倒壊する危険性が大きいことも確かだと思います。
施工不良等の問題もあるので、判断が難しい面もあるのですが、もし同じ施工ミスがあったと想定しても、『直下率』が高い家の方が安心感は高いと思います。

( ii ) 表層地盤

『表層地盤』は文字通り、地表面近くに堆積した地層のことです。この『表層地盤』が柔らかいと地震時に揺れが大きくなりやすいのです。

そして、東京都心部は高台といわれる場所でも地盤増幅率、これは地震が起きた際の揺れやすさのことなのですが、これが1.4を超えているところが多いのです。熊本地震で大きな被害が出た益城町役場の周辺の地盤増幅率が1.3ほどなので、同じレベルの地震が来た場合、東京都心部は高台でも同じかそれ以上の揺れに見舞われる可能性があるということです。

つまり、東京都心部は、高台でもそんなに安心できる地盤ではないということを頭に入れて頂きたいのです。高台は安心だと上述しましたのに、矛盾しているようですが。

『表層地盤』は日本全国の土地を数値化するために、250mメッシュ(約250m四方の代表的な値)で提供されているので、もっと細かな地形の違いは反映されていないんです。典型的なのは、新宿区の住吉町や富久町付近の、新宿区の地震ハザードマップで液状化の可能性があるとされている土地も、『表層地盤』ではさほど高い値になっていません。

ここで『表層地盤』に触れたのは、あくまで高台でも油断はできない、つまり高台だからといって旧耐震の建物でもいいやなどとは思わないで頂きたい、ということが言いたいのです。ここ東京で、熊本地震のように震度7の地震が連続で起きる可能性は限りなく低いとは思っていますが、熊本地震を遠くの出来事だと捉えて、東京の地盤を安全だと過信しないで頂きたいと思っています。

(e) 都心部に安全な木造住宅はあるのか

ここまでの『直下率』『表層地盤』で言いたいのは、東京都心部で安全だと思える木造の一戸建住宅というのが非常に少ないということです。

木造の場合は、直下率を上げようとすると生活空間を十分に確保できるだけの建築面積の広さが必要なので、敷地も広くなくてはいけなくなり、東京都心部では、ちょっとサラリーマンの手に届くレベルの価格でマーケットに出ることはないと思います。(少なくとも、現在のマーケットでは)

(f) 耐震等級“3”なら大丈夫か

耐震等級というのは、建物の強度を表す指標の1つで、3つのレベルがあります。
木造の建物だったら、最高レベルの『耐震等級“3”』は欲しいと思っています。
『耐震等級“2”』だと危ないのか? と言われたら、そんなことはない、としか答えられませんが、施工不良が多少あった場合でも問題が少ない可能性という、確率論の中でのリスクがなるべく小さな建物を選びましょう、という話として聞いて頂ければと思っています。

(g) 木造でなければいいのか

こういう話は100%大丈夫とは言えないことなので、新耐震の軽量鉄骨造やRC造なら安心とは断言できませんが、木造と比較したら安心感が増すのは確かだと思っています。
手頃な価格の一戸建ては、木造であることが多いと思いますが、東京でも、いつ大きな地震が来てもおかしくないと言われているのですから、やはり考慮しない訳にはいかないポイントだと思っています。

(h) 結論

狭小地に建つ木造3階建住宅」は、大地震がいつ起きるかもしれないと言われている現状では、あまりお勧めできません。タワーマンションと同様に、沢山供給されるようになってから、まだ大地震を経験していないので、その耐震性が検証されていないためです。

『耐震性』についてですと、都心部においては、「狭小地に建つ木造3階建住宅」より「マンション」に軍配が上がります。

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「不動産鑑定士」として相談を受けているうちに、物件購入を検討する多くの方が主客転倒(※)のアプローチをとっているのではないかなと疑問に思うことが多く、物件購入を検討する前に知っておいていただきたい不動産の基本についてお話ししたいと思っています。
現在「マーケットに出ている物件」を前提に考えるのではなく、そもそもどんな不動産がリスクも少なく、資産性も保たれる可能性が高いのかを考えていただきたいと思っています。