住居は駅に近ければ近い方がいいのか?

最近、住居は『駅近』でないとダメだ、などと謳われています。基本的には、私も同感です。そりゃ、駅から遠いよりも近い方がいいです。雨が降っているときなどは特にありがたみを感じます。

では、「近ければ近い方がいいのか?」というと、これには少し条件が付きます。

1.生活環境
2.災害

以上の2つの面で条件をクリアしなくてはなりません。

1.生活環境

生活環境」面でのリスクを、“防犯”と“騒音”の面から考えてみます。

(1)防犯
多くの駅の“駅前”には、お店が集積していると思います。地下鉄など、出口が複数あるためさほど集積が見られない出口がある場合や、少し校外の私鉄駅ですと「駅前に何もない」なんてこともありますが。

駅前に複数のお店が集積している場合の、そのエリアの犯罪発生数は、閑静な住宅街と比較すると多くなる傾向があります。警視庁が公開している『犯罪情報マップ』で、昨年の全刑法犯の犯罪件数を見ますと、新宿駅・池袋駅・渋谷駅周辺などが“赤”になっています。“赤”は、5段階で最も犯罪件数が多かったと認められたエリアになります。感覚的にも一致すると思いますが、繁華街はやはり犯罪件数が多いです。

“繁華街”とまではいかなくても、複数のお店が集積しているエリア(商店街など)からは少し離れた閑静な住宅街の方が犯罪件数も少なくなり安心です。

(2)騒音
駅前にお店、特に飲み屋などが複数軒ある場合、夜遅くまで酔客の声が街中に響いたりします。この“騒音”的な面でも“飲み屋街”の近くはお勧めできません。

私の事務所がある新宿の曙橋でも、商店街に飲み屋が数軒あります。繁華街というほど盛り上がった場所ではありませんが、夜遅くまで事務所にいると、酔客の笑い声や音量調節機能が壊れたような大きな話声が聞こえてくることがあります。

商店街から少し離れるだけでも、随分と静かになります。特にファミリー層には、“飲み屋街”の真ん中の物件に住むよりは、少し歩いても、閑静な住宅街にある物件をお勧めします。
#駅前に商店(特に飲み屋)がない駅では、問題ありませんが。

2.災害

武蔵野台地を回り込むように、崖下に線路がある電車といえば、「京浜東北線」が有名ですが、地下鉄も大きな幹線道路の下に通されることが多く、大きな幹線道路も、武蔵野台地の谷地部分を走っていることが多々あります。
そのような路線の場合、駅の近くは「低地・坂下・谷地」であり、弊社のある曙橋でも、駅があるのは、まさに「谷地」であり、液状化の危険性も行政から指摘されているくらい地盤の悪い場所です。このような地盤の状態の場所にある物件では、大きな地震があった場合、建物に損傷が生じる可能性が高まります。


この画像は、国土地理院地図の土地条件図のキャプチャ画像です。オレンジ色の部分は高台ですが、それ以外のところは谷地・低地等です。

建物に損傷が生じれば、当然に修繕が必要になります。損傷可能性が比較的高い場所にある物件は、将来、修繕費が高くつく可能性があるということです。『資産性』という面でも、損傷を負った建物は資産価値がガタ落ちとなるでしょう。

また、「低地・坂下・谷地」は、水害の危険性も高い場所です。また曙橋を例に挙げますが、近くに河川がある訳でもないのに「洪水ハザードマップ」で想定される最大の浸水想定水深は1.0mです。曙橋の低地の全体がこの水深ではないですが、1.0mといえば、床上浸水の可能性がある深さです。

[余談]
ハザードマップを見ていると、1.0mのメッシュの隣りが0.5mとなっている場所があります。実際には同じような高低差の土地なのに、何故、「浸水可能性が1mだったり、0.5mだったりするのか」について新宿区危機管理課に話を聞いてきました。神田川流域については、神田川の洪水が想定になりますが、曙橋周辺は『内水氾濫※』での浸水が想定され、下水道の排水能力により氾濫可能性を判断しているとのことです。あくまでメッシュごとのポイントでの判断であり、付近で氾濫が起きた場合の影響は加味されていないとのことです。
※内水(氾濫):市街地内を流れる下水道などの排水能力の限界を超えることで水が溢れる水害のこと。また曙橋での、この『内水氾濫』での浸水想定の基準となる雨量ですが、以前は時間当たり50㎜だったのが、治水トンネル工事を施工したことにより時間当たり75㎜になっているそうです。
別の言い方をすれば、現状でも、時間当たり75㎜を超えるゲリラ豪雨があれば、『内水氾濫』は起きうるということです。

近いうちに来る可能性が高いと言われている「大きな地震」を想定したとしても、昨今、毎年のように“想定外”の被害を出している「豪雨」を想定したとしても、駅近だからといって、「低地・坂下・谷地」に住むのは避けた方がいいと思います。

3.まとめ

住まいは『駅近』の方が便利です。それは間違いがありません。商店やスーパーマーケットなども駅の近くにあることが多いですし。

但し、『住居』の一番の役割は、そこに住む“家族の命と財産を守ること”だと思いますので、駅近の利便性にだけ目を奪われず、少し歩くことになっても台地上に広がる高台の平坦地にある物件を選ぶなど、「家族の安心安全」を第一に考えていただきたいと思っています。