この項では、(財)全日本不動産協会が作成している「重要事項説明書」に記載のある「都市計画法、建築基準法以外の法令に基づく制限」の土地区画整理法以外の法律についての説明その3です。
■「区画整理法」については(というほど詳しく説明していませんが)、こちら。
■「都市計画法、建築基準法以外の法令に基づく制限その1(法令2~20)」はこちら。
■「都市計画法、建築基準法以外の法令に基づく制限その2(法令21~40)」はこちら。
【注意点1】以下の説明では、法令の大まかなイメージを掴んでもらうことを目的に、正確性よりも「分かり易さ」を優先しています。法令の正確な内容については、改めて調べてください。【注意点2】不動産取引の目的としては東京都区部にある「中古マンション」の売買を想定しています。都区部以外や土地や戸建ての場合には、更に掘り下げる必要のある法令もあるので、お問い合わせください。
【注意点3】建築に規制をかける法令に関しては「中古マンションの取引にはほとんど関係ありません。」と記載していますが、再建築を視野に入れるほどの築古物件の場合には、土地取引と同等の説明が必要です。 |
41.土砂災害防止対策推進法
がけ崩れや土石流などの土砂災害から人命を守るために「土砂災害(特別)警戒区域」を指定し、危険の周知、一定の開発行為の制限、建築物の構造規制、既存住宅の移転促進等の対策を行います。
この「土砂災害(特別)警戒区域」は、東京都区部にも沢山あります。東京都が公開している「土砂災害警戒区域等マップ」(上図は当該マップからのキャプチャです。)を見ると、武蔵野台地の端っこの部分が多く指定されていることが分かります。赤い部分が「土砂災害特別警戒区域」、黄色い部分が「土砂災害警戒区域」です。上図の右側に赤い部分や黄色い部分が多数点在していますが、これらは赤坂や麻布などのブランドエリアです。
当サイトでお勧めしている高台がある地域は、その高台と低地との境目が崖になっている場所も多く見られ、そのような箇所は擁壁が設置されていることが多いのですが、築年が古い擁壁などはヒビが入っていて堅牢さに不安があるものも見受けられます。高台を求めつつも、「土砂災害(特別)警戒区域」は避けねばなりません。
42.森林法
森林を守るための法律です。これも、関係あるとしてもマンションを建築する際に制限される法律なので、完成した建物である「中古マンション」の取引の際は影響ありません。
43.森林経営管理法
管理の行き届いていない森林について、市町村が対象森林の経営管理を受託できるようにする法律です。森林を対象とした取引以外には関係ありません。
44.道路法
「道路予定区域」等になっていると、建物を建築することに制約を受けます。これも、建築物を建てる前に効果があるものなので、完成した建物である「中古マンション」の取引においては特に制約はありません。
45.全国新幹線鉄道整備法
その名の通り、全国的に新幹線を整備しよう!という法律です。東京都区部にある「中古マンション」の取引の際に制約を受けることはありません。
46.土地収用法
公共の利益となる事業(道路が多い)に用いるために、その事業区域内の土地の所有権などを強制的に取得することや、そのための要件、手続やそれに伴う損失の補償などについて規定した法律です。
土地収用法の事業認定の告示を受けた起業地(要は、収用されることが決定した土地)は、自分の思うようにできませんので、重要事項説明の対象となっています。中古マンションの場合でも、以前の記事でも触れましたが、敷地の一部を収用されると「既存不適格マンション」となることがあるので、当該法にチェックがある場合、その収用される土地の面積などを詳しく説明してもらいましょう。
47.文化財保護法
東京都区内の不動産の取引でこの法律が関係してくるのは。「埋蔵文化財包蔵地」です。これの範囲内で土木工事等を行う際は、事前に届出が必要です。
これも、関係あるとしてもマンションを建築する前に制限される法律なので、完成した建物である「中古マンション」の取引の際は影響ありません。
48.航空法 (自衛隊法において準用する場合を含む)
この法律は、空港の周辺での、飛行機の安全な離発着等に必要となる建物等の高さ制限を定めたものです。
これも、関係あるとしてもマンションを建築する際に制限される法律なので、完成した建物である「中古マンション」の取引の際は影響ありません。騒音問題は残る可能性はありますが。
49.国土利用計画法
一定の土地取引について、都道府県に届けなければならない旨を定めた法律です。これも、関係あるとしてもマンションを建築する前に届出を求められる法律なので、完成した建物である「中古マンション」の取引の際は影響ありません。
50.核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律
原子力規制委員会が、廃棄物埋設の事業開始前に、廃棄物埋設施設の敷地及びその周辺の区域並びにこれらの地下について一定の範囲を定めた立体的な区域を指定するものとした法律です。指定廃棄物埋設区域内では、土地の掘削は原則禁止です。
東京都区部に該当地域はありません。
51.廃棄物の処理及び清掃に関する法律
事業活動に伴って生じた廃棄物は、事業者が自らの責任において適正に処理しなければならないこと等を定めた法律ですが、不動産取引で関係するのは、廃棄物の最終処分場跡地等が指定されている「指定区域」内の物件であった場合です。
この「指定区域」内やその近隣にある物件には手を出さないようにしましょう。
52.土壌汚染対策法
特定有害物質による土壌汚染の状況の把握し、土壌汚染による人への健康被害を防止するための法律です。当該法により「要措置区域」や「形質変更時要届出区域」に指定されている区域にある物件には手を出さないようにしましょう。
ただ、過去に指定区域であっても、汚染の除去が済めば、指定は解除されます。解除されていても、過去にそういうのに指定されていた土地は嫌だ、という場合には、過去の住宅地図等で地歴を調べた方がいいでしょう。
53.都市再生特別措置法
近年における急速な情報化、国際化、少子高齢化等の社会経済情勢の変化に対応した都市機能の高度化と都市の居住環境の向上を図ることを目的とした法律です。
これも、関係あるとしてもマンションを建築する前に制限される法律なので、完成した建物である「中古マンション」の取引の際は影響ありません。
54.地域再生法
人口減少問題の克服や東京圏への人口集中問題を解決することを目的とした法律です。地方圏の再生を担うことを狙いとしているので、東京都区部の不動産取引の際は関係ありません。
55.高齢者、障害者の移動等の円滑化の促進に関する法律
高齢者、障害者等が自立した日常生活・社会生活を送れるように、公共交通機関や道路を移動する場合や、公園や建物を利用する場合の利便性及び安全性を向上することを目的とした法律です。
当該法でバリアフリー化するために道路や通路等の整備・管理に関して協定をした区域では、バリアフリー化の整備を進めるための一定の制約を受けます。
これも、関係あるとしてもマンションを建築する前に制限される法律なので、完成した建物である「中古マンション」の取引の際は影響ありません。むしろ、当該協定区域内であれば、バリアフリーを大きなメリットとして謳えると思います。
56.災害対策基本法
大災害への対応やそこからの迅速な復旧を行うために制定された法律です。地方自治体は「指定緊急避難場所」および「指定避難所」を指定し、災害時に住民が避難できるようにしています。
この「指定緊急避難場所」および「指定避難所」となっている場所が取引の対象となった場合には重要事項説明が必要となりますが、まずないことだと思います。
57.東日本大震災復興特別区域法
当該区域を「復興特区」とも言ったりします。東日本大震災で被災した地域の一日も早い復興を目指すための法律なので、東京都区部の不動産取引の際は関係ありません。
58.大規模災害からの復興に関する法律
大規模災害からの復興のための特別な措置について定めた法律です。被災した地域の地方自治体が「届出対象区域」を指定し、円滑な復興整備事業を実施しようとするものであり、被災後に関係してくるものなので、大災害の後に、被災地を取引の対象とする場合以外は関係ありません。
【横に逸れた話】 これらの重要事項説明書に記載のある法令の多くは、消費者を守るために制定されたものです。なので、該当する場合には、その法令の内容をよく調べないとなりません。でも、一般消費者が自分で調べるのは少しハードルが高いです。“少し”としたのは、実は、面倒なだけで難しいことはほとんどないからです。 区役所の受付窓口で「用途地域を調べたい」と伝えれば「都市計画課は〇階です」、「土壌汚染を調べたい」と伝えれば「環境課は〇階です」等と教えてくれます。そして、その物件の所在地を示せば、業者じゃなくても制限される内容を教えて貰えます。 ただ、そもそも「何を調べればいいのか?」から分からない場合も多いですよね。 こう考えると、やはり一番の問題は買主側をサポートするためのバイヤーズエージェント制度が確立されていないことに行き当たります。本来は、買主に相談された業者は、買主に不利な制約がないか、その場所について調査し、不利な契約になっていないか、契約書や重要事項説明書をチェックする必要があります。 現在の不動産仲介の仕組みでは「両手仲介(囲い込み)」を取ったもん勝ちであり、買主だけを押さえても、売主側業者が「両手」を狙っていれば、買付証明書を出しても番手を落とされるので買える可能性が低くなります。そんな商売になるかならないか分からない不安定な状況と分かっていて、買主のためだけに一生懸命調査をする業者はいないですよね。 「両手」を容認する日本の制度の欠陥です。 |