一番の”防災”は「安全な場所に住むこと」です。

首都直下地震やスーパー台風などの大災害が発生しても、生き残るのに一番大切なことは『安全な場所に住むこと』です。関東大震災でも、数百メートルしか離れていないのに、”震度7”ほども揺れたと推定される場所と”震度5弱”で済んだと推定される場所がありました。当たり前ですが、同じ建物でも揺れが小さければ倒壊可能性も低くなります。

不動産のことを体系的に勉強している唯一の資格である「不動産鑑定士」の立場から、30年後・50年後でも住み続けられる「家」を探し出すための、『防災』×『不動産』の基本についてお話ししたいと思っています。

1.住まい基本(安心安全)編

[序文]

「今後30年で70%」ともされる首都直下地震が起きても、『家族全員が無事でいられる可能性の高い家』とは、どういうものなのでしょうか?
昨今、利便性ばかりが強調され「都心部からどれだけ近いか」ということが一番の条件のように喧伝されています。しかし、「家」というのは、家族の“命”を守る場所です。「東京駅まで電車で10分」等の条件よりも、「大きな地震の際でも揺れが抑えられる可能性が高い立地」を最優先すべきです。

その「安全な立地」に建つ「安全な建物」に住むことが、家族の“命”を守ることに繋がります。そして、建物の損壊が軽微で済めば資産性も保たれることになります。

「家」を選ぶ際に最も重視すべきなのは“安心安全”なのです。

「家」にとっての“安心安全”とは、
(1) 大地震が発生しても、揺れが抑えられる立地に建つ、倒壊する可能性の低い建物であること。
(2) ゲリラ豪雨等の想定外の大雨が降っても、浸水しない場所であること。
(3) 空き巣等の侵入犯が入ってくるのが難しい場所・建物であること。
(4) 建物周辺、特に駅から家までの経路に治安面で不安な個所がないこと。
等が挙げられると思います。

そして、この“安心安全”な物件は、【資産性】も高く保たれる可能性が高くなります。
(1)(2)の地震や大雨で損害を受ける建物は、それが発生した時点で【資産性】がガクンと落ちてしまうでしょう。
(3)(4)については、競争力が弱いので、少し景気が悪い時だと、価格が安くしか売れなかったり、そもそも買い手が付きにくいことが考えられます。

このように、『住まい』をシンプルに考えて、一番大切な“安心安全”を重視すれば、平穏な生活だけでなく、【資産性】も保たれるのです。

まず、以上のことを前提に、それぞれについて細かくお話ししたいと思います。

(1) 安心安全(大地震想定編)

近いうちに大地震が来ると言われています。
(「地震は来ない」や「来たら来ただ、対策は無意味だ」と思われている方は、この先は飛ばしてください。来ることを想定しての話なので。)
東京都心部が実際にどれくらいの揺れになるのか、想像もつかないですが、東日本大震災のときも結構揺れました。あれで『震度5弱』ですものね。
その際も、「本が落ちてきた」「食器が割れた」等の話を新宿区の曙橋の辺りでも聞きました。
『震度7』などが来たら、、、と想像するだけで恐ろしくなります。

しかし怖がってばかりいてもしょうがないので、不動産の専門家としての立場から『大地震が来ても倒壊しない可能性が高い住居』というものを考えてみたいと思います。
大きな要素は、2つ。『土地』と『建物』です。

まずは、『土地』に関する『防災』×『不動産』の考え方について述べていきます。

A.土地編:「災害弱所」には住まない!


(画像:国土地理院の「電子国土WEB」のキャプチャ画像)

不動産の基本は「土地」です。建物も「土地」の上に建っていますので、「土地」の性質による影響を直接的に受けます。地震に対する防災面から「家」の“安全”を考えるには、まず「安全な土地」を選ばなくてはなりません。

地震に対する防災面から「安全な土地」とは、「大きな地震の際でも揺れが抑えられる可能性が高い立地」にある土地を指します。

そして、その「安全な土地」を見付けるには、以下のNG立地である『災害弱所』(災害に弱い場所)を避けることが必要です。

(a) 埋立地(湾岸エリア他)

言うまでもないと思いますが、埋立地は地盤が良くありません。深度20m過ぎまでN値2や3の場所なども多いですし、深度50mを超えないと支持層が表れない場所もあります。

このような場所でマンションを建設するには杭を支持層まで打つのですが、地震の際には地面が揺れます。当たり前ですが、地中も揺れます。柔らかい地層は、グニャグニャ揺れます。

過去の大地震では杭が損傷を受けた例も報告されています。「支持層まで杭を打っているから安心」だなんて、とても思えません。

(b) 沖積層堆積エリア(京浜東北線以東他)

「沖積層」は、最も新しい地層であり、まだ固まり切っていない軟弱な地層です。地震時に揺れやすい傾向があります。

この沖積層の堆積エリアは、川の流域に多いです。特に、都区部東部は全体的に沖積層が広がっています。「産総研:都市域の地質地盤図」で沖積層の堆積エリアを見ることができます。

産総研:都市域の地質地盤図
都市域の地質地盤図は,ボーリングデータなどを基に,地層の3次元分布を表示するシステムです.

※左プルダウンメニュー[平面図の選択]からで[沖積層基底面]を選ぶと沖積層の堆積エリアが色付けされて表示されます。

(c) 盛土地

盛土地は、過去の大地震でも一番被害を出してきた地形です。特に、傾斜地にあり、古い擁壁で土留めがされている盛土地は、「災害弱所」の中で最も危険な場所であるといっても過言ではありません。

(d) 液状化の可能性がある地域

東京都建設局が公表している [東京の液状化予測図]では、液状化リスクのある場所を示してくれています。

「液状化」の可能性がある、ということは「地盤が悪い」ということなので、この「液状化リスク」がある場所も避けたいものです

利用上の注意
利用上の注意

※この画面は、東京の液状化予測図の入口に当たる「利用上の注意」画面です。「上記に同意して液状化予測図を見る」をチェックし、マップを見ます。

(e) 埋没谷エリア

これは、上述した「産総研(地質調査総合センター)」が2021年5月に公開した新しい情報です。今まで、各地のボーリング調査地点等で、一度固い地層となっているのに、更に深い部分で再度柔らかくなる場所がある、ということは知られていましたが、そのエリアを可視化した地図となります。

産総研:都市域の地質地盤図
都市域の地質地盤図は,ボーリングデータなどを基に,地層の3次元分布を表示するシステムです.

※左プルダウンメニュー[平面図の選択]からで[東京層下部基底面]を選ぶと埋没谷に該当するエリアが色付けされて表示されます。

(f) J-SHIS Mapの「表層地盤増幅率」が”1.8″以上の場所

こちらは「国立研究開発法人 防災科学技術研究所」が公開している情報で、「250mメッシュ単位の平均的な3次元地盤モデルを構築した上での地盤増幅率」となっています。微地形区分なども参考にしているようですが、あくまでモデリングした上での想定数値ということです。

それでも、これを活用しない手はありません。特にこの「J-SHIS Map」で地盤増幅率1.8以上とされている場所は、地盤が弱い=地震時に揺れが大きくなりやすいとされているので、避けるにこしたことはありません。

J-SHIS Map
地震ハザードステーションJ-SHISのホームページです。全国地震動予測地図の情報を公開しています。

※上のタブから「表層地盤」を選ぶと全国の地盤増幅率を見ることができます。その場所の地盤増幅率を表示させたい場合は、地図上でその場所をダブルクリックします。


以上が、来たる首都直下地震等の大地震が発生した際に、揺れが大きくなる可能性がある場所です。
つまり、これらの「災害弱所」を避けることが「安全な土地」を見付けることに繋がります。

住まい探しにおいて、以上のエリアに関しては、予算で妥協するポイントではありません。

」で一番大切なのは、住む人の命や財産を守ることです。
「災害弱所」を避けることが、家族の命を守ることに繋がります。
#商売(収益物件)は別です。あくまで『住まい』です。
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「不動産鑑定士」として相談を受けているうちに、物件購入を検討する多くの方が主客転倒(※)のアプローチをとっているのではないかなと疑問に思うことが多く、物件購入を検討する前に知っておいていただきたい不動産の基本についてお話ししたいと思っています。
(※)現在「マーケットに出ている物件」を前提に考えるのではなく、そもそもどんな不動産がリスクも少なく、資産性も保たれる可能性が高いのかを考えていただきたいと思っています。