収益シミュレーション編
(4) 還元利回りの査定
前回までの、『賃料の査定』『賃料の下落率の査定』『空室率の査定』で、賃貸経営のシミュレーションは可能です。年ごとの収支は出すことができるので。
ただ本来、収益不動産は、資産運用という側面もあるのですから、適切な『利回り』も必要となります。『利回り』がゼロ%若しくは0.1%等の低いものなら、定期預金等の方が“お得”ということになります。
賃貸経営の『利回り』を計算する方法には「内部収益率(IRR)」があります。「内部収益率(IRR)」は、その物件の実力を測るのに有用な指標です。
#「内部収益率(IRR)」の計算について説明すると長くなるので、説明を割愛します。この後、IRRを使わない方法を提案します。
「内部収益率(IRR)」は有用なのですが、この物件を何年運用するか及び出口(将来の売却)の価格を想定する必要があります。この判断・想定は、そんなに簡単ではないので、物件が『投資適格』かどうかを判断するための別の方法を提案したいと思います。
それは、「この不動産投資から、何パーセントの収益を得たいのか。」を決めることです。この投資家が求める最低限必要な収益率を「ハードルレート」といいますが、これを「還元利回り」として、この物件から得られる収益を割ることで、『投資適格』かどうかが分かります。
※簡単に説明するために「還元利回り」という言葉を使っています。鑑定評価の手順等には則っていませんので、ご了承ください。
適正水準の還元利回り
とはいえ、では『還元利回り(ハードルレート)』は、どれくらいに設定したらいいのだろう?という疑問が沸くと思います。
これもなかなかシンプルにいかないのですが、1部屋の区分所有マンション投資と、一棟のRCマンション投資では還元利回り(ハードルレート)を変えるべきですし、都心の物件と地方の物件でも想定利回りは変わります。
それでは、どのような方法で、還元利回り(ハードルレート)を査定したらいいのでしょうか。
還元利回り(ハードルレート)を査定する方法
還元利回り(ハードルレート)を査定するのに参考とする情報に、「調査会社が公表している値」と「エリアの募集物件から簡易的に計算する方法」があります。
※ここでは、一般の方でも分かりやすいように簡単な方法で説明しています。専門的な方法(鑑定評価基準に則る手法)とは異なる場合もあることをご了承ください。
調査会社が公表している値
不動産の期待利回りを公表していることで有名なのは、(財)日本不動産研究所です。
●一般財団法人 日本不動産研究所
http://www.reinet.or.jp/
この研究所が半年に1度公表している「不動産投資家調査」の中に『期待利回り』が掲載されています。真ん中くらいのページに「賃貸住宅の期待利回り等について」があります。
このページのリストから、自身の保有物件(検討物件)に一番近いものを選びます。
ただ、ここに記載されている利回りは、錚々たる不動産会社や不動産投資会社のアンケート結果なので、大規模かつグレードの高い物件を想定しています。
なので、個人投資家よりもずっとリスクの少ない物件を購入しようとしている会社でも、これくらいの『期待利回り』を想定するのだ、という位置付けで参考にしてください。
J-REITの有価証券報告書に記載された還元利回り
先の記事「空室率の査定」にも記載した内容ですが、「J-REIT物件」を参考にする方法があります。まず、以下のサイト等から、「還元利回り」を調べたい地域(の近く)にあるJ-REIT物件を探します。
▼Japan REIT DB (https://www.reitdb.com/findmap.aspx)
Japan-REIT.comが提供しているREIT物件のマッピングサービスです。
▼キャップレートマップ (https://www2.capratemap.com/)
株式会社ICHIが運営する、Googleマップ上にJ-REIT物件が表示されるサービスです。
物件が見付かりましたら、その投資法人のサイトに行き、「IRライブラリー」の中の「有価証券報告書」を開きます。「還元利回り」は、Caprateの略で「CR」と表記されていることが多いと思います。
ただ、ここに記載されている利回りは、大規模かつグレードの高いREIT物件のものなので、「この周辺で一番リスクの少ない物件の利回り」というくらいの位置付けで参考にしてください。
エリアの募集物件から簡易的に計算する方法
この方法は、区分所有マンション投資の場合に、有用と思われる手法です。購入を検討している物件又はそのエリアの類似物件の利回りを計算します。
使用する価格と賃料のデータは、
●HOME’Sのプライスマップ
https://www.homes.co.jp/price-map/
です。
このサイトに掲載されている価格や賃料は、あくまで参考とすべき情報で、このサイトに表示されている通りに売れたり賃貸に出せたりする訳ではありません。
さて、ここでは、新宿区の曙橋駅近くの高台の平坦地にある「ダイナシティ市谷仲之町」のデータを見てみましょう。
▼ダイナシティ市谷仲之町
「PRICE MAP」に物件名を入力して検索。出てきた地図を少しズームアップすると物件名が表示されるので、「ダイナシティ市谷仲之町」をクリック。
#以下の数字は、この計算をした時(2022年2月)に掲載されていた価格等を採用しています。
X《代表参考価格の専有面積》25.41m2
A《代表参考価格の中央値》2,530万円(上位3桁で四捨五入)
B《代表参考賃料の中央値》月額 104,500円(百円未満四捨五入)
C《管理費の推定月額》12,520円
D《修繕積立金の推定月額》3,410円
E《固定資産税・都市計画税の推定額》69,000円
※下3つ(C~E)は、当該マンションの他の部屋の数字から推定したもの。
[還元利回りの算出]
{B×12-(C×12+D×12+E)}÷ A = 3.93%
となります。
実際の鑑定評価の手法ではないですが、参考とする利回りを知るための簡易的な方法としては、まぁこんなものでしょう。
これにより、新宿区市谷仲之町の25m2ほどの区分所有マンションを投資対象にする場合、現況はこの程度の利回りでマーケットに出ているのだな、ということが分かります。
この数字の根拠としている価格も賃料も「募集」のものであり「成約」のものではありません。なので、しつこいですがあくまで参考としてください。
高い還元利回り(ハードルレート)を求めるなら
上記により参考とすべき利回りは把握できました。
これらの利回りを下回るような価格で購入することは控えた方がいいでしょう。
また、これくらいの利回りで納得ができるなら「購入」という決断をするのもいいと思います。
とはいえ、今はマーケットが天井付近にあるため、利回りは低めです。
少しでも高い利回りを得たい場合にはどうすればいいのでしょうか。
●マーケットが落ち着くのを待つ
「ハードルレート」として、例えば7%以上欲しい等の場合、マーケットが落ち着くのを待つという手もあります。ただ、マーケットが低調のときは、利回りは高くなるものの、金融機関の融資姿勢も渋いことが多いです。
●郊外の物件に投資
郊外の不動産の方が利回りは高いことが多いです。それは、リスクが高いからです。主には、「空室リスク」「出口(売却)リスク」です。
「空室リスク」は、空室が埋まらないリスクです。郊外は、物件を安く買えますが、安いということは需要が少ない場所ということでもあります。郊外の物件を買うのでしたら、工場・大学・大病院等、賃貸需要を生む施設が近所にあることを確認しましょう。同時に、それが撤退や廃業するリスクもできるだけ把握しましょう。
「出口(売却)リスク」は、売ろうと思ったときに売れないリスクです。需要が少ない郊外では、売ろうと思った時がマーケットの低調な時にあたると、価格を下げても売れない、なんていう状況に陥るリスクがあります。
郊外の物件に手を出す際には、これらのリスクを考慮した上で購入しましょう。
●築年の古い物件に投資
築年数の古い物件の方が利回りが高いことが多いです。これは、郊外物件と同様のリスクもありますが、融資も付きにくいためです。
ただ、利便性の高い立地にある物件なら、「空室リスク」はかなり軽減されるので、旨みのある投資になる可能性もあります。
●木造アパートに投資
RCのマンションと比較して、木造アパートの方が利回りが高いことが多いです。
リスクとしては、部屋のグレードが落ちることによる「空室リスク」、建物の耐用年数が短いことにより融資期間が短くなりがちなこと、建物の耐用年数が短いということで「出口(売却)リスク」も挙げられます。自分が売ろうと思ったときに、買ってくれる人は、更に短い耐用年数でしか融資が受けられなかったりするので。
メリットは、RCマンション等と比較すると、少額で複数の部屋を所有できることです。所有しているのが一部屋だと、それが空室になってしまうと収入は“ゼロ”ですが、複数の部屋があれば、リスクは分散できます。また、減価償却費を短期間で計上できるので、客付けに問題のない(空室が短期間で埋まる)物件でしたら、RCマンションよりメリットがある場合もあります。
以上の通り、高い利回りを求めれば、それに伴うリスクを負うことになります。上記のリスクの他にも、災害リスク、火災リスク、騒音等のトラブル・リスク等が考えられます。
総合的に考慮して、購入の判断を慎重にしましょう。